グループワーク 小野グループ

プラットホームとしての美術館を意識する

小野グループ
課題作品:
北脇昇
《美わしき繭》 1938年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
受講者:
10名(小学校教諭6名、指導主事1名、学芸員3名)
ファシリテーター:
小野範子(茅ケ崎市立緑が浜小学校 教頭)
サブファシリテーター:
熊谷香寿美(東京都美術館 学芸員)


活動内容


アートカードを使って自己紹介

1.アートカード等を活用した自己紹介

複数の美術館のアートカードと絵はがきを混ぜ、意図的に近代美術絵画作品に限定して 36枚用意した。 3枚ずつ伏せて配付。そのうちの1枚について読み札を考え、カードを全て表にしてテーブルに戻す。 順番に読み札を読み、カルタ大会をしながら自己紹介。



作品を2人で共有して言葉に

2.言葉にして、つなげる、つながる

《美わしき繭》(題名等は書いていない)をプリントしたシートを配付。一人で作品を見て、「見えたこと、感じたこと、考えたこと」をその作品の 「ここから見えた、感じた、考えた」が分かるように余白へ書きこむ。その後、二人で共有し、5分経ったら別の人と二人で共有する。 さらに、5分経ったら、話していない人と3つのグループになり、つなげた言葉を深め、発表し全体で共有する。


3.部屋の作品とつなげる、つながる

3グループで部屋の作品から1点選び、それぞれが自分の地域で実践している取組を紹介しながら鑑賞する。
さらに、選んだ作品と《美わしき繭》と比べながら鑑賞する。 終わったらグループごとに発表し全体で共有する。



鑑賞教育の可能性を議論

4.基本は「よく見ること」

部屋全体のタイトルについてそれぞれが考え、共有した後、サブファシリテーターの熊谷さんから、学芸員の方たちがどのように展覧会をつくっていくのか話を聞いた。 「『美術館』は学芸員による編集空間。皆さんの鑑賞と同じように創造活動。見る側も見せる側も前提として大事なことは、1つ1つの作品を『よく見ること』」とまとめていただいた。



それぞれの地域の取組を紹介

5.美術館が遠くて、連携できないお悩み解決

福岡県の先生からは北九州市立美術館との事例、神奈川県川崎市の先生からは岡本太郎美術館との事例などをご紹介いただき、 児童にとっての本物と実物について、鑑賞教育で何を大事にするか全員で確認をした。


発表

作品を味わうとともに、展示空間も味わう。
① アートカードでカルタ大会をして自己紹介。
②《美わしき繭》の写真が載っているシートが配付され、各自で余白に見たこと感じたことなど書きこむ。その後、2人組、違う 2人組、3人と共有して深めた。
(40人で授業をするとき、全員が言葉にして発表し、できるだけ多くの人と共有できるようにするため)
③共有したことを発表し合う。
④午後からは、3つのグループに分かれて、《破局》、《ランチェロの唄》、《百姓の昼寝》(3作品とも題名は伏せて)を1つ選んで、 午前中の《美わしき繭》と比べながら、各グループでそれぞれが各地域で実践している取組を紹介し合い鑑賞した。
⑤部屋全体のタイトルを各自で付け、見る側から見せる側の意図に迫る。
⑥最後に振り返りをして美術館との連携について考えた。

グループワーク講評

今回は、どのグループも色、形、材料などを通してイメージを作り出す、あるいは掴み取ることに多様にアプローチして発表につなげていたと思いますが、 このグループは、非常に自覚的なかたちでそれを組み立てていました。イメージは多様、かつ多義的です。 皆さんの議論は、色々な方向に分かれていましたが、討論を重ねるうちに、各作業グループなりのイメージの解釈が方向づけられていきました。 そのプロセスも非常に面白かったです。また、この展示室全体が、美術館から提起された一つのイメージ空間ですが、 それをどう読み解くかを、自覚的に提議していて、私もその議論から、学ばせてもらいました。

長田 謙一



ファシリテーター感想

常設展示の作品は、部屋に根をはって動かないものと思っていました。その作品が今回の展覧会のテーマによって、別の部屋に軽々と移動しており、まるで「転入生を迎えた新年度のクラス替え」のような新鮮さがありました。 そこで、サブファシリテーターの熊谷さんと、1つの作品を深く鑑賞するのと同時に、展示は学芸員がつくりだした意図的な空間であることも意識するワークにしたいと考えました。 美術館の装置を知ることは、連携の1つともいえます。最後に部屋のタイトルを付け、その理由も発表していただきましたが、環境汚染、戦争に向かっていく不安、失っていくものなどマイナスのイメージと、 たくましく生きる人間やいのちの輝き、人々の希望など前に向かっていくイメージを対比させて、それぞれがテーマに迫っているのが興味深かったです。 美術館は文化のプラットホーム。今回の出会いでも、多角面から様々なことに気付かせていただきました。グループの皆様に感謝するとともに、また、私もここから旅に出ようと思います。

小野範子

サブファシリテーター感想

小野先生のグループでは、参加者の皆さんに、1つの作品とまた別の作品をつなげる鑑賞のワークをして頂くことで、編集された空間という美術館の本質を意識しながら、 学校と美術館の連携の在り方を考えて頂くことを試みました。というのも、小野先生との事前の打ち合わせの中で、参加者の皆さんが経験豊富な方が多いこともあり、 具体的な授業実践方法ではなく、皆さんが職場に戻られた際の活動のヒントになるものを持ち帰っていただくことを考えたからです。 いざ始まってみると、参加者の皆さんそれぞれが積極的に参加され、終始和やかな雰囲気の中で、そのエネルギーが心地よく循環していきました。 今回の活動を通じて、皆さんが何かしらのヒントを持ち帰っていただけていたらうれしく思います。 また、美術館の人間として、このようなテーマを設定して頂いたことをとてもありがたく思っております。 小野先生を始め、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。

熊谷香寿美


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

小学校教諭
  • まず よく見ることが大切であり、なぜそう思ったのか、絵から読み解いていくことが鑑賞になることがわかり、よかった。
  • 美術館での鑑賞に十分に浸れたこと、他の人と考えを交わすことができて、とても良い経験になった。
  • 前知識なく、1枚の絵にじっくり向かい合う時間でした。子どもと鑑賞するときも、時間をゆったりととることを心がけたい。
学芸員
  • 一見、意味が分かりにくい絵について、自分で分析し、他の方と議論を重ねていき、まとまった意見を出す、というプロセスを丁寧に踏んだことで、子どもと一緒に じっくり絵をみるための、シュミレーションをすることができ、自信もついたと感じた。
  • 指導者の立場でなく、参加者の立場で対話型の鑑賞を体験することよって、どのように思考が深まっていくのかが分かり、貴重な経験になった。
指導主事
  • 10人のグループでできる鑑賞のとりくみの幅の広さを教えてもらった。再度テーマを設けて鑑賞した時には、もう一度作品を見直すことで、また今までと違った視点で見ることができ、新鮮だった。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

小学校教諭
  • なんとなくそう思うでなく、そう感じた根拠を大切にさせたい。
  • 寸劇のような形、なりきって一言など、小学生での表現活動に是非取り入れてみたい。
  • 子どもたちからの意見を引き出す、つなげる・・・といった活動は鑑賞のみならず、通常の授業においても必要なスキルだと考えます、日常から生かしていきたい。
学芸員
  • 鑑賞に模造紙とふせんを用いて発表に至らせる、ということは方法として有効だと思いましたので、実践したい。
  • 子ども向け鑑賞プログラムを行う際にも、子どもと一緒に、丁寧に絵をみて、根気づよく、絵からよみとれることや、感じとれることを探っていくプロセスを大切にしたい。
  • 明日の中学校美術部会の研究場所になっているので、中学校の先生方に対話型鑑賞教育のことについて、説明したい。
指導主事
  • 研修や指導の際に紹介していきたい。図工・美術教員はもちろんのこと、他教科の先生方にも紹介したい。