グループワーク 西村グループ

キーワードを基にした鑑賞の授業づくり

西村グループ
課題作品:
和田三造
《南風》 1907年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
受講者:
11名(小学校教諭7名、指導主事1名、学芸員3名)
ファシリテーター:
西村德行(東京学芸大学 芸術・スポーツ科学系美術・書道講座 准教授)
サブファシリテーター:
藤田千織(東京国立博物館 学芸員)


活動内容


アートカードで自己紹介

1. アートカードでかるた遊びをしながら自己紹介

一人2枚ずつのアートカード(絵札用)と、付箋2枚(読み札用)を配布。
書き終えたらカードは車座の中央に広げ、読み札はファシリテーターのもとに集める。 カルタをとった方から自己紹介ができる。



発見したことをグループで共有

2.課題作品をじっくりと鑑賞する

作品の近くに寄って、何が描かれているのかをじっくりと見る。 絵を見て思ったこと、発見したことなどを、配布した『南風』の図版に書き込み、最後に発表する。 描かれている人たちは誰なのか?どんな関係なのか? 場所は?時間は?何をしているのか?またどのように描かれているのか? 思ったこと、発見したことなどを話し合い、グループで共有した。

3.授業づくりのための3つのキーワードを発表する

このグループでは、「自立」「協働」「創造」の3つのキーワードをもとに、鑑賞の授業をつくることにした。 付箋を配り、このうちのひとつについて、思い当たる出来事や職場で話題になっていることなどを書いてもらい、それをもとに話し合う。



授業を考え寸劇で表現

4.3つのキーワードをもとにした授業づくり

3つのグループをつくり、『南風』を使った授業を考える。
「自立」「協働」「創造」が子どもたちに芽生えたなという場面を、寸劇にして表してもらう。



5.3グループによる発表(各グループ5分程度)

「自立」班は小学校1年生が対象で「自分が見つけたものを、言葉で表現できる」が授業のめあてであった。 「創造」班は高学年対象で、美術館で行う鑑賞の授業。それぞれの人になりきって鑑賞する活動で、感想を述べ合い交流する場面もあった。 「協働」班では、描かれた場面を複数用意し、立場を変えて演じることで、見ている側に考えさせる場面があった。 お互いの意見をすり合わせながら話をつくるなど、高学年らしい活動であった。



発表

西村+藤田グループでは、3つの班の中から「協働」班の案を代表で採用することにした。 「協働」班の四人のメンバーには登場人物に徹してもらい、『南風』を「漂流している場面」と「釣りをしている場面」、それぞれの場面として解釈し、寸劇にして発表してもらった。 ほかの班から先生役(岩田先生)と、発表全体の進行役(小笠原先生)、「創造」班(矢花先生)および「自立」班(西森先生)からは、それぞれの班での活動を報告してもらった。 短い時間の中で、よく検討いただきました。先生方、本当にお疲れ様でした!

グループワーク講評

言語活動には、記号のような論理的な言語のレベルと、言語自体がイメージをはらむというレベルがあります。 同様に、視覚文化にも記号のようにそれ自体が何かを表すというレベルと、美術ならではのイメージの次元というものがあります。 発表の寸劇も含め、このグループの活動は、イメージと言葉を巡り、その両方の次元を巧みに取り込んでいたように思います。 <言語活動の重視>では、美術を記号それ自体やあるいはまた記号のような言葉の集積に還元してしまうのではなくて、 子どもたち自身のイマジネーション、つまり記号のような言葉には還元できない美術固有のイマジネーションを掘り起し、作り出していく働きが求められると思います。

長田 謙一



ファシリテーター感想

西村+藤田グループでは、和田三造の『南風』を課題作品にして、鑑賞の授業づくりをしました。 私はここ数年、「子どもたちに問いが生まれることば」について考えるグループワークをしてきたのですが、 今年は鑑賞活動をとおして、子どもたちを課題に導き、またそれを解決するような授業づくりを考えることにしました。 実はこのアイディア、打合せでサブファシリテーターの藤田さんからいただいたものです。 「鑑賞を鑑賞だけに終わらさない」ことはとても大切なことです。 今回は次期学習指導要領のキーワードでもある、「自立」「協働」「創造」を用意し、子どもたちがそれを課題解決する場面を先生方に寸劇にして考えていただきました。 意欲的な先生方のおかげで、ファシリテーターの私が一番楽しい時間を過ごさせていただきました。 グループの先生方、また活動のアイディアをいただいたサブファシリテーターの藤田さんに深く感謝いたします。有り難うございました!

西村德行

サブファシリテーター感想

このグループでは、作家名も作品名も、背後の情報も明かされずにワークが進みました。 私の働く博物館では、見ただけでは何に使うのかすら分からない考古遺物や工芸品なども多く、 ほとんどの教育プログラムで、そのモノについてある程度の背景情報はお伝えします(対象にもよりますが)。 今回は最後までグループメンバーから背後の情報についての質問がなかったことに驚きました。 背景の情報なしで鑑賞の授業を組み立てるのはとても勇気がいることです。 しかしそこをあえて省略したことで、見えている要素だけを素材にせざるを得ず、それでもかなり作品の本質に迫る会話ができるという、鑑賞の基本が再確認できました。 情報の提供がまったく必要ないということでは決してありませんが、子どもたちの見る力、読み取る力を信じることの大切さは、 分野が古美術だろうと現代美術だろうと変わるものではないはず、ということを再認識する良い機会となりました。

藤田千織


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

小学校教諭
  • 授業に直結した課題を出していただきありがたかった。鑑賞を教育活動から切りはなしては考えることができない、子供たちの育てたい力を明確に目標に持って、指導計画をたてたいと思った。
  • 実践できるもの、応用の利くものに絞り、時間を頂いて学ばせていただいた。南風での手作りグッズや授業の展開の持っていき方が今後の授業に生かせる。
  • はじめは何をどう考えれば良いのか分からなかったが一人のアイデアが切り口となりどんどん発展、とても楽しい活動となった。
  • 様々な見方を学ぶことができた。「鑑賞の活動を通して」ということを深く考えることができた。
学芸員
  • グループワークでは、学習指導要項をふまえた上で学校の先生方から学校現場のお話を伺いながらプログラムを考える事ができたので、職場でもこれができればと思った。
  • 授業作りや鑑賞の仕方、なりきりトークなど、美術館の教育普及活動に役立つ内容だった。
指導主事
  • 時間があっという間に過ぎていき、いろいろな立場からの考え方で授業を組み立て、自分自身も楽しく取り組めた。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

小学校教諭
  • 対話型鑑賞において育てたい力を明確にもつことと、その目標を達成するためにどの作品を子ども達と出会わせることができるかという事を考えていきたい。
  • 絵の中の人に自分を置き換えるのは、今までもよくやってきたが、なりきって演技というのは初めてで、教室でも早速やってみたい
  • 南風の手作りグッズがきっかけとなる効果を活かす、登場人物になりきることで言語活動にからめながら心情を学ぶ、 友達の意見を折り合いのつけ方を実践していく、楽しくるすことで、自己肯定感を高める。
学芸員
  • 学校と美術館の連携活動とそのための関係づくり。
  • 様々な鑑賞の方法があることが分かり、子どもの発達段階や実態に応じて使い分けたいと思う。
指導主事
  • 指導主事という立場から、今回自分が学び経験したことを現場の先生に伝えていければと思う。