グループワーク 三澤グループ

時間をかけて、みてみる。

三澤グループ
課題作品:
村越としや
《「大きな石とオオカミ」より》 2011-2012年
受講者:
10名(中学校教諭7名、指導主事1名、学芸員2名)
ファシリテーター:
三澤一実(武蔵野美術大学教職課程研究室 教授)
サブファシリテーター:
関聖美(国立国際美術館 学芸課 研究補佐員)


活動内容


10分間、作品と向かい合う

計5回、感想を書き記す

1. 時間をかけて、みてみる。

今回は写真作品の鑑賞に挑戦した。作品は、村越としや「大きな石とオオカミ」よりシリーズ写真作品12点である。 先ず写真作品に行く前に、2階のグループワークエリアの作品を各自鑑賞し、気になる作品を一点選び、なぜその作品を選んだのかをメンバーの前で話した。 またその内容について他のメンバーから質問を受け付けた。このワークでメンバーの自己紹介も兼ねてみた。 さて、写真作品の鑑賞であるが、今回のテーマは作品情報をいつ提供したら良いのか、また、情報が無くして何処まで鑑賞を深めることができるのかが隠れたテーマであった。 美術館を活用する方法は様々あるが、先ずは実物の作品をどの様に読み解くか、そして、作品を読み解いていく中で、どの様に気持ちが変化し、鑑賞が深まっていくのか。 このような研修の機会で無ければ一作品に十分に時間をかけて鑑賞することはないだろうとの予想のもとでのチャレンジである。 さて、ワークは、まずは一人で10分間じっくり作品に向かい合ってみた。そこで気がついたことや思ったことなどを付箋に書き込み、模造紙に貼ってみた。 次に、二人でペアを作りそのペアで話しながら20分鑑賞した。そして、同じように付箋でその時の感じたことを書いて模造紙に貼っていく。 午後のワークでは写真の表現テクニックに関する「覆い焼」の情報を提供する。 即ち、意図的に空や強調したいものを表すために、焼き付けの際に手などで覆い露光時間に変化をつけ作画が行われたということである。 その情報の提供後、三人で再度作品を鑑賞した。三人の鑑賞後、最後の情報提供としてタイトルを見せ、写真集も回覧した。 そして最後に2グループになって12点の作品の中から一番印象に残る1点を選びギャラリートークをしてみた。 付箋紙は先の2回に加え、三人組の鑑賞後と、テキスト読んだ後、ワークが終わっての感想と計5回書いてみた。


発表





「もやもや感も鑑賞のうち」
ワークの内容を説明した後、各参加者が感想を述べた。
「鑑賞もその作品を見た時に思ったことが大切になってくるので、どんどん間違いを怖れずに発言することが大切なのだと思いました」。 「最後のワークで自分の考えが変わってきたことがはっきりしたのでその変わっていくことを楽しめました。きつかったのですが」。 「モヤモヤすることも鑑賞するうえで重要なのだと実感できました。興味のなかった作品だったけど、何時間も向き合っていると好きな部分もあって面白い体験だった。  キャプション…読みたいような読みたくないような」など、じっくり見ることの大変さとおもしろさについて発表があった。


グループワーク講評

非常に実験的なプログラムでした。一人で見て、二人で見て、三人で見て、とグループの人数を増やしていく中で、見かたや感じ方が先生方自身の、大人の世界の中で広がっていく。 これがヒントとなって、それでは子どもたちにはどうやってこの作品で鑑賞していくか、を考えることにつながりました。
情報をどの段階で与えるのかということも大事な問題です。最初から情報を与えてしまうとそれ以上の見かたができなくなってしまうことがあります。 今日もいくつかの作品は、タイトルや作者名が隠されていますね。また,情報だけではなく、先生が生徒にかける言葉も大事です。 「この作品どう感じる?」と先生が言ったとたんに、「作品」という言葉に思考が止まってしまう子どももいることを知っておく必要があると思います。 「この中でどんな世界が広がっているんだろう」という投げかけで、作品という言葉を使わなくても、子どもが作品の中に入れるようにする工夫もあるわけです。

東良 雅人



ファシリテーター感想

「時間をかけて“みる”という事。時には不快も」
三時間もかけて指定された一作品をじっくり見る機会などほとんどないだろう。そのような鑑賞活動はある意味苦痛である。 子どもたちにはこの様な苦痛の体験を与えるのは好ましいとは思わないが、教師は経験しておいた方が良いと思う。 そのような教師自身の体験が美術館を活用した鑑賞の充実につながるのではなかろうか。ワークを終えた参加者の感想を紹介する。 「ものすごく時間とエネルギーを使う活動であったが、全て必要なステップであった。 授業にもこれぐらい時間をかけたい。「聴く」力が大切。情報の与え方が非常に重要だと感じた」。 「鑑賞に対して、「不快」(苦しむ時間)がどれほど重要かがよくわかりました。新しい視点をたくさん学ぶことができました」。 「とても楽しかったです。じっくりみる事、じっくり語る事、自分の話を聞いてもらう事、みなさんの話を聞く事。自分の価値観がゆり動かされ悩みましたが楽しかった」。

三澤一実

サブファシリテーター感想

12点のモノクロ写真とただひたすら向き合う鑑賞はシンプルかつハードなものでした。 個人を出発点とし徐々に人数を増やす鑑賞では、自己と他者の考えの違いや共通点がもととなり作品のみかたが豊かになりました。 しかしモヤモヤ感も生まれたようです。写真だからこそかもしれませんが、写っている事実と自由な見方との見えない距離にもどかしさを感じられたのではないかと思います。 そんなモヤモヤの後で与えられた作品の情報は、皆さんにとってどんな効果をもたらしたのでしょうか。 時間をかけて考えた分、新たな情報を得た喜びと安心感・共感もあったかと思います。 反対に「情報をそのまま受け入れてよいのか」という意見も出ましたが、これは大きなポイントだと感じました。 さまざまな角度からじっくりと鑑賞に取り組み自己の価値観をもったことが、情報を判断するものさしになったのだと思います。 鑑賞にかける時間と情報を与えるタイミングがより深い鑑賞を支えています。 楽しいだけでなく丁寧な鑑賞時間をもつことの大切さを感じました。ありがとうございました。

関聖美


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

中学校教諭
  • 1つの作品群に対して長時間、作品の意味を考えたのは初めての体験だった。美術に興味の無い生徒をどのように引っ張っていくかが工夫のしどころだと思った。
  • 「鑑賞する」しんどさを体験し、その喜びや発見を知ることができた。
  • これだけの時間を費やして見る価値に気づかされた。自分の価値を作り上げるからこその深まりを感じた。
  • 様々な視点を交換することができた。作品の中に自分の価値を見出していく過程のようなものを体験できた。
学芸員
  • 1つの作品をここまで時間をかけて鑑賞するのは初めてで、非常に疲れたが、対話をしながら見ることで、自分の心の動きや考え方の変化が実感できたし、この気持ちを子どもたちにも伝えたいと思った。
指導主事
  • 様々な価値観に巡り会う事ができ、有意義であった。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

中学校教諭
  • 1つの絵について、自分たちの考えを言い合い、また新たな解釈ができるという経験をさせてやりたいと思いました。
  • 答えを最後まで出さず、子どもたちの想像力や発想力を高めていきたい。
  • 子どもの気付きが生かされるような活動を仕組まなければいけないと感じた。それだけの視点を私自身が主にみがかなければいけないと思う。
  • 作品鑑賞をする際の時間確保(じっくり観る)の大切さを改めて感じたので、大切な視点として意識したい。
  • 鑑賞教育には、空間や時間にたっぷりと余裕をもたせないといけないと思った。考える中で生まれるひっかかりや、不快感をいかに生み出すかを参考にしたい。
学芸員
  • 子ども主体の鑑賞は、話がどの方向へいくのかどうかが不安だが面白そうだと感じた。作品に関する情報なしでの鑑賞とその後の鑑賞という形でプログラムを実行していきたい。
指導主事
  • 先生方向けの研修会で活用したい。