グループワーク 山田グループ

出来事・主題・表現者たちの眼

山田グループ
課題作品:
古賀春江
《海》 1929年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
受講者:
10名(中学校教諭8名、学芸員2名)
ファシリテーター:
山田一文(埼玉県教育局南部教育事務所 指導主事)
サブファシリテーター:
平谷美華子(東京富士美術館 学芸部 学芸課 学芸員)


活動内容


中学生の鑑賞プログラムを考える

1.中学生の鑑賞プログラムを「出来事」「主題」「表現者たちの眼」をキーワードに考えます。

中学生の鑑賞は、作品に関する知識を得ることが目的になりがちですが、学習指導要領が求めているのは、自分なりの意味や価値をつくりだしていく鑑賞です。 本プランでは、後者のような鑑賞を行うために、表現者が出来事に対して、何を思い、何を見つめ、どのように主題をつくりだしたかを鑑賞することを基本とします。 最初のキーワード「出来事」は関東大震災です。この未曾有の災厄は、現在の中学生にとって未知のものですが、当時をイメージするために東日本大震災を手がかりにすることができるでしょう。 次のキーワード「主題」は、表現者たちが生成した様々な主題です。 現実と正対し事実を突きつけるものがあると同時に、過去の優れた文化や風俗を伝えようとするものや、新しく生まれ変わった都市の活力を映し出しているもの等が見られます。 同じ出来事から生成された多様な主題が、中学生が自分なりの意味や価値をつくるのに良い影響をもたらすことを期待します。 最後のキーワード「表現者たちの眼」は、表現者たちが主題を作品として実現するために、表現者たちが選んだ対象や扱った技法です。 このような内容をもとに豊かな鑑賞プログラムを考えます。


グループで鑑賞プログラムを改善

関東大震災関連の作品

2流れ

(1)自己紹介
  自由鑑賞後、気に入った作品と一緒に自己紹介。
(2)テーマ紹介
(3)小グループ活動1
  3人程度のグループで、鑑賞プログラムを考える。
(4)ジグソー活動
  小グループの検討内容を、ジグソー活動で共有する。
(5)小グループ活動2
  3人程度のグループの、鑑賞プログラムを改善する。
(6)発表
  3人程度のグループの成果のグループ内発表を行う。


発表

3グループが3つのプログラムを紹介

【学芸員体験】
事前に作品カードで作品展示作りを体験する。美術館では作品と展示空間を鑑賞するとともに、展示の意図なども学ぶ。事後で作品展示を再考し、展示をより身近に感じるようにする。

【出来事から生まれた多様なメッセージ】
最初に出来事の記録を鑑賞した後、どのように人が描かれているかを鑑賞することで、作者のメッセージに迫る。関心を高めるため「どんな音が聞こえる?」等の発問をする。

【謎からの鑑賞】
この展示室で岸田劉生に頼まれ描かれた作品は?絵の中の不思議を探してみよう!などの問いを通して、作品に東洋西洋が混在していることや、この時代が転換点であることに気付かせる。

グループワーク講評

これで中学校のグループワーク講評が最後になりますので、少しまとめて話します。
すべての発表を通して申し上げたいのは、義務教育最後の段階で、子どもたちが形や色彩と関わりながら、人格の形成を一層進化させていくのだということを忘れないでほしいということです。
先生方は専門性が高いので、いちいち形だの色だのイメージだのに分けなくても鑑賞できているのだと自覚してください。 自分の見た感じをそのまま子どもに持っていっても、難しい場合があります。 だから、先生方がまず作品に向き合うときから、形、色彩、材料、光、イメージなどを子どもの学びの視点で見ることが大事です。 そこを意識しないと、どうしても活動面が強くなりすぎて目的化し,肝心な「学習」の部分があいまいになってしまうのです。
授業づくりを行う前に、先生方自身が、〔共通事項〕の視点をもちながら作品と向き合うということです。 そしてその作品に子どもが向き合った時、形や色彩といった〔共通事項〕とどうやって出会うんだろうと考えることが大事になるのです。

東良 雅人



ファシリテーター感想

今回のグループワークでは、特定の作品を味わう鑑賞ではなく、展示室全体を味わう鑑賞を課題としました。 美術館の展示は担当の学芸員が意図を持って創りあげたものであり、学芸員にとって作品と言っても過言ではありません。 学校と美術館の連携では、学芸員の作品である展示の意図を共有することも極めて重要と考えたわけです。 今回のグループワークを通じて先生方がそれぞれの地域の美術館との連携に新たな視点を加えていただくことを期待しました。 実際のグループワークでは、メンバーがとても熱心に活動をしていることが印象に残りました。 特に、「先生方が学芸員の展示の視点を考えて見てくれていた。前に進んだ感じがした」のコメントと、 メンバーの多くが、活動の場とした展示室に高い関心を持っていただいたことをとても嬉しく思います。 充実した時間をありがとうございました。

山田一文

サブファシリテーター感想

これまでとは確かな違いを感じた今回の研修。 それは全国から集われた地域もキャリアも様々な先生方の中に、「鑑賞教育」という言葉とその内容についての共通認識が一定数を超えて生まれ、その先を求める姿を目の当たりにしたからかも知れません。 ファシリテーターの山田先生と東近美の展示室を巡り決めた部屋は、派手さはなく、一連の時代の流れの中での転換期が表現された空間でした。 出来事に対し表現者は何を思いどう表現するか。そしてその表現物を用いて学芸員はどんな空間に創りあげるか。 そんなことを感じさせる展示室内には油彩、版画、写真、日本画、屏風と多ジャンルがリズムをもって展示されていました。 先生方の真剣な思いと場のもつ力の両方が活かされた結果、対話型鑑賞に偏らない柔軟な発想で、美術館を活用した鑑賞授業の考察が一層深められたように思います。 ファシリテーターの山田先生、そして参加者の皆様に心より厚く御礼申し上げます。

平谷美華子


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

中学校教諭
  • 生徒同様に質問をされると戸惑ってしまったが、3人で意見を交わしているうちに作品に対しての見方も変わり、いつの間にか楽しく充実した時間となっていた。このような発見・経験を生徒にも伝えたい。
  • 各地の先生方や学芸員の方と活動出来たことがなによりの経験だったと思う。一人では考えることができない課題に対してアプローチができた。また、ジグソーで別のブループの取り組みを知る事が出来たこともよかった。
  • 最初は与えられた課題に戸惑うことがたくさんあったが、他の人達と会話する中で自分の考えがまとまり、新たな見方・考え方も吸収した。生徒の立場に戻って体験できたのでよかった。
  • こんなにも長時間、同じ空間で座ってじっくりと本物の作品の前で授業を考えることはなく、とても貴重な体験だった。様々なグループの話し合いの効果も勉強になった。
  • グループワークにおいて討論を繰り返す事によって、よりよいものが次々と考察されていく過程が体験出来た。
学芸員
  • 空間を使った授業展開は実際美術館で鑑賞授業する時とぴったりのシチュエーションで、すべてが参考になった。
  • 普段ゆっくりと話をするチャンスの少ない学校の先生と意見を交わす事ができ、学校現場についても理解を深めることができた。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

中学校教諭
  • 来年の兵庫県の県造形教育研究大会に鑑賞授業のセクションをつくり、この研修の成果を多くの生徒・教師に伝え広げていきたいと思う。
  • 修学旅行や学校行事で美術館での鑑賞プログラム等実施したいと考えました。
  • 地区の研究会で活動の報告をするとともに研修会(美術に限らず)でもこのようなグループワークで指導力の向上につなげたい。
  • 3〜4人のグループというのは話しやすいので、小グループでの対話型鑑賞を行ってみたいと思った。美術館の方と案を出し合って、美術館での鑑賞を行ってみようと思った。
  • 実際にすぐ使える指導室の案が構築出来た。また、研究の場で「ジクシー」という手法も生かせると感じた。
学芸員
  • 先生の相談の仕方、学校の受け入れ方、進め方、見ることが出来た。すぐにでも取り入れ、実践したいと思いました。
  • 美術館の学芸員としてできる事を改めて考え、学校以外の場で美術と出会う機会を提供していきたい。