グループワーク 亀井グループ
日本美術はむずかしい?小学生にとっての鑑賞を模索する
- 課題作品:
- 鏑木清方
《墨田河舟遊》 1914年
>> 作品情報はこちら(画像有り) - 竹内栖鳳
《雨霽》 1907年
>> 作品情報はこちら(画像有り) - 土田麦僊
《湯女》 1918年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
- 受講者:
- 9名(小学校教諭6名、学芸員3名)
- ファシリテーター:
- 亀井愛(三井記念館美術館 教育普及員)
- サブファシリテーター:
- 本間美里(港区立御成門小学校 教諭)
活動内容
1. [みる]
鑑賞を通して、みんなで絵を読み深めていく楽しさを共有する
グループワークの始まりは、美術館のエントランスホールにした。建物を見渡した後、展示室へ移動。
竹内栖鳳《雨霽》の前に集まり、自己紹介とアイスブレイクを兼ねて鑑賞を行った。
この作品を選んだ理由は、日本画特有の表現に注目して、日本の美術文化を鑑賞するきっかけをつくりたかったから。
まず最初に作品を1人でじっくりみる時間を作り、知り合ったばかりの仲間がどのような見方をするのか、意見交換をおこなった。
そして全員で遠くから、近くから鑑賞し、「この作品をみるならここ」という場所を選んでもらった。作品をみる場所、角度によって様々な見方ができること、
鳥や木・葉、時間、場所といった観点から感じたことについてイメージを広げ、細部に目を向けることでさらに見えてくることや感じることを共有した。
2. [しる]
日本美術の特徴について知ると、もっと鑑賞が楽しくなる
土田麦僊《湯女》を見ながら岩絵具や、膠、墨、絹といった日本美術特有の画材と屏風について、理解を深めた。
自然から生み出された色の深さ、屏風の独特な表現形式など、知識を得ると、さらに興味が広がるということを共有した。
3. [ふかめる]
美術館を活用した小学生の鑑賞について考える
鏑木清方《墨田河舟遊》を小学生の気持ちになって鑑賞。気付いたことを付箋に書いて、床に貼っていった。
付箋には、描かれているものの数を問うものから、描かれている人物がどんな気持ちなのかを考えるものまで、様々な言葉が書き出された。
《墨田河舟遊》は、小学生にもわかりやすく様々な発見がある作品である。しかし、描かれているものがあまりにも多いため、どこからみていいのかと難しく感じる作品でもある。
そのため、付箋の言葉を分類、整理しながら、作品を鑑賞するうえでのキーワードを全員で検討した。
そしてキーワードをふまえ、3つのグループに分かれて、小学校高学年を対象とした授業の展開を模造紙にまとめた。
いくつかの授業展開が考えられたが、ねらいをどこに置くかが話題となった。
4. [共有する]
振り返りと全体発表の準備
各グループでどんな話し合いが行われたのか全員で共有し、グループワーク全体の振り返りを行った。
発表
発表は、グループ全体から1人選出した司会者が、まずグループワークで行った活動の流れを説明したあと、各グループの代表者がそれぞれ検討した授業案について発表した。
各グループからは画面の前後の場面を考えさせる、題名をつけさせる、音で表現してみる、子どもの視点から物語を読み解くなどの案が出た。
そのなかで共通していたのは、日本美術の造形的な特徴を子どもたちがどうとらえ、自分のイメージをもち(想像力をはたらかせ)、それを他人と共有し、表現するか。だった。
子どもと作品との出会いを大切に、小学生の鑑賞活動について模索したことを発表者は思いを込めて伝えてくださった。
グループワーク講評
このグループでは、日本人でありながら、馴染みが薄くなっているかもしれない「日本画」をとりあげていました。 まず率直に触れ合うこと、そして子どもたちの興味を刺激しながら、上から教えるのではなく必要な段階で適切に情報を提供することで、 作品がよりいっそう深く見えてくることを上手にプログラムしていたと思います。 絵と直接向かい合うことは、タブーとなっていることも含めて大人が形式的に考えるようになったことを、 もう一度、素直に見ることでそこに新しい価値基準をつかみ出していくことだと思います。
長田 謙一
ファシリテーター感想
今回は、表現の異なる3つの屏風を選びました。私のグループでは、勤務年数が15~20年以上の方がほとんどだったため、事前アンケートでどなたも記入していなかった屏風の作品をとりあげることで、 鑑賞活動の幅を広げてほしいと思ったからです。モチーフが多い作品だからこそ、創造的な鑑賞活動のあり方について、議論が深められると考えました。 そのため、ワーク自体はなるべくシンプルに進めるよう心がけましたが、ファシリテーターの力不足もあり、みなさん相当悩み、苦心されたようでした。 しかし同じ主題について共に考えた時間はやはり得難いものであり、私にとっても鑑賞に対する考えを振り返る貴重な機会となりました。最終日に「今までだったらきっと素通りしていたと思う。 グループワークを通してこの作品と出会うことができてよかった」という先生の言葉が嬉しく思いました。グループの皆様、サブファシリテーターの本間さん、ありがとうございました。
亀井愛
サブファシリテーター感想
この研修は、学ぶ意欲をもった方々が集まり、鑑賞をして絵の見方・感じ方を膨らませたり、授業や鑑賞方法を考えたりする、「創造の場」でもあると思います。 皆さんは、絵をじっくり見て、対話をしながら、自分自身やあるいは他者と向き合うことで、作品がよく見えたり、一緒に鑑賞している相手が理解できたり、 普段向き合っている児童・生徒、お客さんとのやりとりを思い出したり、色々な思いを巡らせながら、参加されていたように思えます。 屏風絵について鑑賞を行い、それぞれの絵の見方を共有したり、技法について学んだり、授業を考えたりしました。 また、ござを敷いて鑑賞し、昔の人が屏風をどのように鑑賞したかも味わうことができ、「本物」に触れる良さも実感できました。 最後に、高学年の子どもの気持ちになって絵を鑑賞し、実際の授業内容を3つのグループに分かれて考えました。 美術館で学んだことをそれぞれの現場に持ってかえってはじめて、今回の研修が活かされることと思います。楽しみです。
本間美里
受講者感想(抜粋)
グループワークのご意見・ご感想
- 小学校教諭
-
- 職業経験の異なるメンバーで作品鑑賞すると様々な視点から作品にアプローチすることができ、より深く絵と語り合う事ができました。
- ファシリテーターの方の考えで、グループ毎に様々な鑑賞へのアプローチがなされているところがおもしろいとおもいました。鑑賞の着地点をどこに置くかなど、基本的な問題に立ち帰って学ぶことができたのがたいへんよかったです。
- 実際に作品を前にして、もし高学年で鑑賞の授業をするとしたら・・・と構想を練ることができ、多くのアイディアも聞くことができて、とてもよかった。
- 学芸員
-
- 自分がワークショップを受ける側に立つと絵画の意外と見えていなかった部分も見えてきた。発表の際は言葉に出すことで考えをまとめることができたのが有意義だった。
- 先生方の授業の考え方が、どのような発想から得られ組み立てらてているのか、よくわかった。
グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか
- 小学校教諭
-
- 自分の中で鑑賞はこうあるべきだという思いが今まで強すぎた気がするので、柔軟に鑑賞法を考え同僚と共有できるものをつくっていきたいと思います。
- 10月に公開研究授業を控えているので、ギャラリートークのような雰囲気の授業を実践したいと考えている。
- 構成と流れを考えたので、実際に使ってみたい、また「言ったことを否定されず認めてもらえる」日頃の学級経営とともに子どもたちにもそうしてやりたいと感じた。
- 学芸員
-
- 視点を探したり小道具を使ったりするのはこれから先も使えそうだと思った。
- 子どもに対する際のスタンスを学んだ。また、グループワークの内容は、事前・事後の授業への活用に活かしたい。
- 学校での連携に生かせるよう、今後はこの内容を先生方に伝えていきたい。また、他の県の様子等も話題にしていきたい。