グループワーク 南・朴グループ
鑑賞を通して生み出されること
- 課題作品:
- 山下菊二 《あけぼの村物語》 1953年
岡本信治郎
《制服のスフィンクス・スタインベルグの肖像》 1969年
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中村宏 《円環列車・B- 飛行する蒸気機関車》 1969年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
- 受講者:
- 9名(教員5名、指導主事1名、学芸員3名)
- ファシリテーター:
- 南育子(墨田区立業平小学校 教諭)
朴鈴子(京都国立近代美術館 学芸課 研究補佐員)
活動内容
作品を一人で鑑賞すること、グループで鑑賞することにたっぷりの時間を確保する。 この鑑賞体験を根拠に、自分の中に起きていること、自分の中に起きた変化を実感し、言葉(物語)にすることで交流する。 お互いにじっくりと聞き取ることで自分にある、自分にしかできない鑑賞の文脈を探る。創造的な鑑賞の新たな発見と挑戦をめざした。
1.自己紹介、アイスブレーキング(20分)
名前と出身地、所属に加え、好きな色とその理由も一緒に自己紹介。そのあと、ファシリテーターがグループの1人を指名し、その人の好きな色を言った。 次に、指名された人が新たに他の人を選び、その人の好きな色を言い当て、同様の内容を全員が指名されるまで行った。 この活動は、1日グループで協同しあう活動の中で、他の人の話にしっかり耳を傾けることの重要性に気付かせるべく行った。 抜き打ちで行ったが、全員が答えることができた。
2.グループワークⅠ
(1)「なりきりギャラリートーク」による鑑賞体験 (60分)
山下菊二の《あけぼの村物語》を対象に、3分間個々に鑑賞したあと、1人ずつ全員の前で2~3分のギャラリートークを行った。
発表前に15分間、準備時間を設けた。ギャラリートークは、各々自分で役柄を設定しその役に即した内容で構成すること、作品を見て得た根拠のある情報で構成することの2点をルールとした。
役柄は様々で、絵の中に登場人物(動物)、作者の弟子や親族、作品の購入に携わった学芸員などがあった。
話す人ごとに、同じ要素についてもまったく異なる視点から生き生きと語られていた。
また3分間のトークの中で、内容に優先順位がはっきりわかることから、全員自立した鑑賞を行っていたことを知ることができた。
(2)「なりきりギャラリートーク」による鑑賞体験を根拠に「わたし」に起きたことを確認する (60分)
ギャラリートークのあと、下記について記述するワークシートを配布、各々が下記の設問に基づいて振り返った内容を持ちよってディスカッションを行った。
①一人で作品をみる
「主観的なわたし」の奥深くでざわめいたことは?
②他者と作品を共有しながらみる
「客観的なわたし」が気づいたことは?
③変わったことは?変わらないことは?
3.グループワークⅡ
(1)課題作品の鑑賞を通したワーク (60分)
キーワード : 何だろう?どうしてだろう?何が起きているのだろう?
Aグループ 《制服のスフィンクス・スタインベルクの肖像1969》 岡本信治郎
Bグループ 《円環列車・B飛行する蒸気機関車1969》 中村宏
じっくり作品を見るうちに描かれた色、形、動き、質感、構成などの造形要素からイメージを立ち上げた。次第に「何だろう?」「どう見える?」という問いが生まれ、グループ内で自然にいろいろな見方が交差し始めた。
作品が描かれた時代背景や何を伝えたいのか作家像へも意識が広がった。
探求力、想像力を働かせ創造するこの活動から、鑑賞教室の計画へ移った。
(2)交換鑑賞教室 (20分)
キーワード : 作品へ誘う「問い」をもつ
問いかけることにより作品への関心を引き寄せたグループワークⅠでの体験により、グループ全員が「問いかけ」には挑む力、鑑賞する力を導くという手応えを感じ取っていた。
交換鑑賞教室は、それぞれのグループで用意しておいた「問いかけ」をうまくとりいれながら進行し、その先にさらなる疑問が生まれるように、細部から全体へ視線を行き来させた。
4.グループワークの振り返りと全体発表の準備 (35分)
今ある課題と新たに位置づけられた鑑賞の可能性を重ねあわせ交流した。
まずは、「鑑賞を通して生み出されること」について考えることは、グループ全員にとって新たな課題との出会いであったといえる。
また、このグループワークでの体験を授業で活用することについても、積極的に語られた。
発表
南&朴グループは、複数人で鑑賞し意見を比較することで知る自分自身の見方を重要視しながらも、まずは自分自身がその作品をどう捉え感じるのか?という部分に重きを置いた。 発表では、まず上記のグループが目指したことについて、ファシリテーターが簡単に説明を行った。 そのあと、活動内容をグループのメンバーが(実際に行った)ギャラリートークや全体の感想などを述べてまとめた。
グループワーク講評
子どもたちを、どれだけ豊かなイメージの世界に誘うのかがよくわかるグループ活動だったと思います。 対話型鑑賞は、開かれたイメージの中に意識的に子どもたちを誘っていくわけですが、このグループが取り上げた通常とは少し異なる作品の開かれたイメージは、ある方向性を持っています。 そのことが、生活と深く関わりながら子どもたちの多様なイメージを培っていくうえで大事な問題を抱えていると思います。 この絵の残虐なイメージと土俗的なイメージは、共にある思いを伝えています。 子どもたちがこのイメージに強く反応するとき、子どもたちの中にもそうした思いがある、あるいはそうした思いが掻き立てられるのだと思います。
長田 謙一
ファシリテーター感想
南・朴グループは「鑑賞を通して生み出されること」をテーマに活動を展開しました。 グループのメンバーはそれぞれに課題をもち参加されていましたので、着地点も個々にゆだねるという緩さをもちました。 みなさんの作品に向かうエネルギーは圧巻で、ご自身の体験と描かれていることを交えながらイメージを立ち上げ文脈をつくり伝えることをされていました。 ディスカッションでは「懐かしい気持ちになった」「作品の内側から語る視点で話したとき言葉につまった」といったように率直に自分の中で起きたことをお話いただいたことで、 鑑賞の創造性とともに、その人を感じさせる鑑賞の新たな一面を垣間見ることができました。 3作品に共通する時代背景を包括した主題はテキスト『観賞者が何かを読みとろうとしなければ、何も語られることはない。主体的にならなければ何も起こらないのである。 そして受動から能動へと転換したときに、絵画は何らかの「事件」がおこる「兆」を見せる「場」と変貌する。』(中村宏「図画事件」より)にあるように、 私たちに能動的な活動を主体的に起こさせました。描かれた作品にあることから展開させたイメージの往還はダイナミックで、とても刺激的なものでした。 私自身もたくさんの発見をさせていただきました。グループのみなさま、朴さんありがとうございました。
南育子
ファシリテーター感想
今回のグループワークでは、他の人との鑑賞で知る自分の見方よりも、まず自分がどう作品を捉え向き合うのかという部分に注目しました。 私が担当した午前の部では、1人で見て考える時間を多めに設け、受講生それぞれの見方によって生まれた作品解説をしていただきました。 それぞれの文脈で多様な内容でまとめられた解説を聞くことができたと思います。 さらに他の受講生の発表を聞くことで、気づかされることもあったと思います。 1人で鑑賞すること、複数人で鑑賞すること、両者それぞれに利点、互いに補い合える点があると思いますが、人の意見に影響されずまずは自分がどう見るのか? をしっかり知ることを重要視した活動として位置づけました。 午前の活動を軸に、同じファシリテーターの南先生が午後のグループワークの内容を構成してくださいました。 お互い、今回グループが目指すゴールの設定において意見が合致していたので、とてもスムーズにプログラム作りができました。 また、グループのみなさんが、1つ1つの活動の意図を読み取ろうと努力してくださったことにも、感謝しております。
朴鈴子
受講者感想(抜粋)
グループワークのご意見・ご感想
- 小学校教諭
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- 自然にグループの人たちと仲良くなるような自己紹介を考えてくださり、一人一人のギャラリートークを深まりのあるものに導くトークをして下さったりしてありがたかった。
- 鑑賞の良さについて、自分自身、多くを学ぶことができた。
- ややハードルの高い課題だったがゆえにしっかり考えチームでも協力できた。
- 学芸員
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- 鑑賞に関心がある先生、学芸員が一体となって鑑賞の原点に立ち返る事ができて良かった。
- 日頃「どう話してもらうか」を考えているので、話す側に立って話すことの難しさを実感した。
- 「何かになりきってトークをする」という設定は活用出来ると思った。普段なら足を止めない作品をじっくり見て考える事ができ面白かった。
- 指導主事
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- 指導案をつくったり、指導方法について考えさせたりするのではなく、ギャラリートークを受ける側の立場(子ども視線)での時間をたっぷりと用意頂いた点が新鮮だった。
グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか
- 小学校教諭
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- 色で自己紹介するのはインパクトがあって面白かったので、子どもたちにもさせてみたい。じっくり見る一人の時間を大切にすることや、自由にモノが言い合えるグループの鑑賞、そしてそれを紹介しあう形式も面白いので授業で活用したい。
- 町内の若年教員の研修会が11月に実施される予定で、その場の講師を任されているので、早速本研修会の内容を伝えたい。
- 小学生の鑑賞の授業で「一人でみる→一緒に見る→皆でシェア」の流れと、なりきりトークをやってみたい。学芸員とのさらなる連携もしたい。
- 学芸員
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- 1人1人の見方、見方の違いを大切にしながらファシリテートできるように言葉の使い方、声かけのタイミング、間いの投げかけなどを工夫していきたい。
- 鑑賞させる側が「自分なりの鑑賞」を充分に行った上で活動しなければ、鑑賞を通して何かを生み出せるほどの深い鑑賞までもっていけないと感じた。作品をじっくり見てから活動することを大事にしたい。
- 一人で作品とじっくり向き合う時間を大切にしたプログラムを作っていきたい。また、地域の教員や学芸員の方々と経験をシェアする機会をつくりたい。
- 指導主事
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- 美術館における研修会等においても、なりきりトークやグループ活動等についてどんどんとしょうかいしていきたい。