グループワーク 弘中グループ
子どもたちと一緒にみる、はなす、美術館の時間
- 課題作品:
- 松本俊介
《Y市の橋》 1943年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
- 受講者:
- 10名(小学校教諭6名、学芸員4名)
- ファシリテーター:
- 弘中智子(板橋区立美術館 学芸員)
- サブファシリテーター:
- オベル加藤貴子(世田谷区立上北沢小学校 教諭)
活動内容
教員6名、学芸員4名のこのグループの課題は、ギャラリートークのスキルアップである。
そのため、現在のギャラリートークの悩みを挙げ、子どもたちの鑑賞する姿を思い浮かべながら、
教員と学芸員の連携について、具体的な議論を行った。
1.ギャラリートークの悩みを打ち明ける
全員が何らかの形で子どもたちと美術作品の鑑賞を行ったことがあるため、その際の問題点を付箋紙に書き出し、グルーピングを行った。 問題点はいくつかにまとめられ、教員の側からは美術作品、作家への知識不足、学芸員の側からは子どもたちへの接し方が分からないなどが挙げられた。
2.作品鑑賞
ギャラリートークの目的は作品をじっくりと鑑賞することにあるため、 議論の後は松本竣介の《Y市の橋》を最初は一人、次は二人一組で鑑賞した。 二人で見ることで新しい視点が加わり、自分の見方が深まることを実感した。
「もまたん」と見る《Y市の橋》
作品を見る子どもたちの姿を具体的に想像するためのツールとして、笑った顔、怒ったような顔など様々な表情の「もまたん」を用意した。
教員の側からは、子どもたちの行動や発言の傾向について話があり、学芸員からは作品に関する話が出た。
2、3人が一組になり、「もまたん」の表情から性格やギャラリートークを行った時の反応を想像した。
例えば次々に発言する子どもには、意見を尊重しつつ、なぜ?どこから?などの質問で深めていくこと、自分から感想の言えない子どもには、季節はいつ?など具体的な質問が良い、との意見が出た。
3.子どもたちに教員、学芸員ができること
子どもたちに対して、教員と学芸員がそれぞれできることは何かを話し合った。 例えば子どもたちの意見を引き出すことは教員が行い、子どもたちから具体的な作品への質問が出た時は学芸員が答えるなど、役割分担をすること、 ギャラリートークに限らず、自由に見て、学芸員に質問の出来る時間や雰囲気作りも良さそうだという意見が出た。
発表
1日のグループワークの流れを、ワーク中に作成した3つの模造紙を示しながら紹介した。 1枚目は、ギャラリートークの悩みに関するもので、子どもたちへの言葉掛け、教員からは作品や美術の知識についての悩みが寄せられた。 2枚目は5人の「もまたん」を中心に、教員と学芸員からのアプローチに関するまとめで、異なる性格の子どもたちに、どのように言葉をかけ、接すると良いのか、それぞれのタイプ別に書き出した。 3枚目は本日のまとめで、グループワークを通じて、学校や美術館に持ち帰りたいと思ったことを書いたものである。 教員と学芸員がどのように連携すべきか、じっくりと話し合うグループワークであった。
グループワーク講評
このグループも、展示室全体が持っている意味にまで及ぶ、密度の濃いグループ討議を重ねたことがよくわかりました。 このグループの展示室は、以前は美術館に展示すること、あるいは語ること自体がタブーだったような作品を含む空間で、 このような空間を美術館のなかに設けると言うこと自体が、新しい美術館の経験を私たち提供していると思います。 そういう中でこそ可能な、子どもたちの美術との関わりという、非常にスリリングな課題に皆さんで挑んでいたのだ、ということがよくわかる成果発表でした。
長田 謙一
ファシリテーター感想
教員と学芸員が連携することで、より充実した鑑賞ができるのではないかと考え、今回は子どもたちの姿と彼らへのアプローチについて具体的に考える時間を設定した。 子どもたちは必ず教員や学芸員が想定した受け答えをするわけではない、クラスにはムードメーカーの子どもがおり、作品を見て感じることがあっても言葉にするのが難しい子どももいる。 様々な表情をした5人の「もまたん」(MOMATガイドスタッフのキャラクター)は、子どもたちのリアルな姿を思い浮かべる為に登場したツールである。 教員側からは、子どもたちの性格別に具体的なアプローチ方法が提示され、子どもたちにとって、ほぼ初めて出会う学芸員がどのように参加すべきかを話し合うことができたのは相互の情報交換になった。 クラスやグループでのギャラリートークの時間のみならず、子どもたちが自主的に自由な鑑賞の時間に学芸員や教員に話しかけることのできる雰囲気と時間作りが大切だと感じた。
弘中智子
サブファシリテーター感想
事前の打ち合わせ時に、弘中さんから「子どもの姿が抜け落ちないようなワークにしよう」と提案があり、私も共感しました。 このチームは教員と学芸員がほぼ半々。それぞれの立場から子どもの姿を思い描いたり、共有したりするなかから生まれることが大きいと思いました。 ワークの大きな柱になったのは、弘中さんが生みの親「もまたん」の異なる表情のカードを手に、二三人の班でその子(もまたん)の人物像を想像し、 この子ならこんな絵の見方をするのでは?と考えたことです。この活動自体が非常に創造的で、鑑賞することの根本である、想像を巡らせる楽しさの演習のようでした。 最終的には教員と学芸員それぞれの立場から、どのような対応を図るか相談しました。 参加者の皆さんは、子どもの目線を通して語り合う事で、午前中に共有した鑑賞教育に関する課題の糸口を見つけていました。 昨年度受講者として参加しましたが、今回研修を創る立場として関わることができ、多様な習得がありました。 このような機会を頂戴できたこと、大変幸運に感じております。
オベル加藤貴子
受講者感想(抜粋)
グループワークのご意見・ご感想
- 小学校教諭
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- 子どもを想定し、その個性に応じた投げかけの手法がおもしろかった、学芸員の方とペアで、それぞれの役割を考えられたのも良かった。
- ギャラリートークにも様々なやり方があることが分かり、とても有意義だった。
- 学芸員さんと話し、違う立場から鑑賞について考える機会が持てたことがよかった。
- 美術館と学校の連携について、じっくり話し合えたのはなかなかない機会でよかった。
- 学芸員
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- 「鑑賞」についてここまで細かく丁寧に考えていたことはなかった為、自分が何が分かっていなかったのか、問題は何か、と言う点に気がつくことができた。
- 学芸員と教員が一緒になって作業することにいい気な意義を感じました。連携していくうえでお互いにどのようなことに悩んでいるか明確になった。
- 年齢の性格に応じた子どもたちの対応の仕方について、具体的に考えることができた。がんばりすぎず、ともに楽しみながら鑑賞するということを学んだ。
- 学芸員の立場、先生からの視点、子どもたちの反応と対応について、普段見逃しがちなことをグループで気づき合いながら深く下げることができてよかった。
グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか
- 小学校教諭
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- 学芸員の立場での考えが、とてもよくわかった。改めて日頃からの学校で、学級で対話型の授業の大切さを感じた。現場での今年の研究に対話が据えられる。
- まずはギャラリートークを実現させたいと思った。またそれが難しい場合は、学芸員の持ってらっしゃる知識等を共有してもらい、授業づくりをしたい。
- 県内の美術館と連携をとり、児童に実物の絵画と触れ合う機会をとれるように計画をたてていきたいと思う。それが難しい場合は、学級でできる範囲で、今回学んだことや作品提示を取り入れ、鑑賞の充実を図っていきたい。
- 学芸員
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- これまで学芸員サイドの考え方のみで、鑑賞教育を実践してきたが、今後は学校の先生の意見も参考にし、子どもたちの行動や発言に対応していきたい。また、先生と連携した鑑賞 スタイルを考えていきたい。
- 美術館を活用してもらう際、教員との役割分割分担をしっかりと決め、子どもたちから教員が引き出せること、学芸員でしかできないことを実践したい。
- 鑑賞の際の言葉がけ、タイミング、内容を学校対応の際に生かしたい。
- 話し合ったことを実践に取り入れて確かめて、スタイルをつくっていきたい。