グループワーク 濱脇グループ

シンプルに、作品から、子どもの姿から考える。ともに、考える。

濱脇グループ
課題作品:
三木富雄
《EAR》 1965年
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受講者:
10名(中学校教諭7名、学芸員3名)
ファシリテーター:
濱脇みどり(西東京市立田無第一中学校 教諭)
サブファシリテーター:
横山佐紀(国立西洋美術館 学芸課 主任研究員)


活動内容


アートカードで熱意ある自己紹介

1.アートカードを使って気持ちほぐし&自己紹介 

2階ロビーで車座になり、今の自分を表す一枚を選んで自己紹介。
このカードを知っていた方、自ら研修に応募した方、各一名。
しかし、発言からは二日間の成果を自分のところで子どもたちに還していこうという参加者の熱意がうかがえた。



作品を見て気持ちを述べあう

2.作品を見る

まず各自素直に作品と向き合い、気付いたことを述べ合う。
大きさや材質、そして耳という器官が持つ機能やそこからイメージされる事柄などについて話題が進むにつれ、自己と他者、あるいは外界との関係、 また物質の持つ存在感、形態や仕上げ方をはじめ「耳に選ばれた」と語った作者の、ものを作るということについての意識や表現主題と作者との関係などについて、ともに気付き考えていくことになった。
最後に作者の生涯や時代背景などについて簡単に情報を共有したあと、今の気持ちを述べ合う。
「作者の気持ちや意図など、答えは出ずもやもやしているがそんな作品・鑑賞活動でよいとわかった。」 「沢山の見方・考え方を得ることができ、改めてみんなで作品を見ることの力を感じた。」など。



付箋と模造紙で課題を書き出す

3.実践を交流する

三色の付箋と模造紙を使い、各自の実践や課題について交流。
美術館・博物館からの貸し出しについての積極的な事例や、大型出力機器を活用した質の高い資料作りなどハード面の方法や可能性、授業や来館時の発言や活動の様子から、 とかく心を閉ざしているように見える中学生が、本当は沢山のことを感じているのだという参加者の認識を共有できたことはとてもよかった。
その上で、子どもの見方・感じ方を広げる事例や、鑑賞活動と表現活動、他者、日常生活とのつなげ方などについて、その後のワークの土台となる考え方の共有ができた。
中学生部会として避けて通ることのできない知的な情報の与え方と評価の問題についても議論した。

4.中学生への投げかけを考える

3グループに分かれ、作品の性質から、何らかの形で生徒と実物を出会わせることを前提に、鑑賞活動を考えた。


発表

①事前に鋳造体験を取り入れ、材質感や成型の特徴を手立てに、実物から受ける印象から「なぜ耳?」と作者の主題に迫らせようとする提案。
②「耳に選ばれた」という作者の言葉を手立てに、実物の鑑賞を生徒が取り組んでいる自画像の制作とつなげる。耳と作者との関係を中三生は考えることになる。
③写真撮影という行為を通して見方を深める。実物を各自が撮影し帰校後発表会を行い、視点を交流することから主題に迫っていく。
鑑賞活動を考える上でぶれてはいけないのが「身に付けたい力」だ。
グループ発表の後、その視点でもう一度活動を整理し、全体発表に臨んだ。
かなり方向性の異なる活動案が示された。

グループワーク講評

小グループに分かれて同じ作品を見て、それぞれに鑑賞活動のアイデアを出し合うことは、新たな視点を得るきっかけにもなります。 しかし中学校の先生方は、一人配置校も多く、相談したり複数で取り組むことが難しいという現状があると思います。 しかしそれで諦めるのではなく、どんな機会をつくればそれができるのかということを、真剣に考えてほしいです。 なかなか難しいことではありますが、何人かで集まって考えるということが、鑑賞活動を考えるうえで有効であることは、これまでの発表で明らかです。 地元に帰ってからも、学校も美術館も一緒にみなで集まって考える場を作っていただけたらと思います。
絵や彫刻を扱った授業の場合、作者の心情や表現の工夫に焦点をあてて授業されることが多いと思います。 しかしそのとき絶対忘れてはいけないのは、どのように形や色彩などの造形的な要素が働いて、作者の心情表現につながっているのかを考えること。 いわゆる〔共通事項〕の視点をもつことです。ついつい心情的に漠然とした感想で終わってしまうケースが、実際にはよくあります。 造形要素を押さえることが、鑑賞で学びとった力が表現で活かされ、表現で学んだ力が鑑賞を深めるといった創造活動のサイクルをつくることにつながります。

東良 雅人



ファシリテーター感想

今年はシンプルに、1つの作品をみんなで見ることと参加者の日ごろの実践を交流することを軸にしようと決めていました。 様々な経緯で一日を共にすることになったメンバーですが、子どもたちの生涯の糧となる鑑賞活動をつくるという同一の目標の下に集まっています。 そのような方々が思いをより堅固にし、今後共に励まし合えるチームとなれるようなワークにしたかったのです。 物語性や抒情性が少なく物質的な存在感が際立つ立体作品は、私にとっても冒険的な対象でした。 結果、お互いの経験や特質をさらけ出して力を合わせることがしやすい対象だったかなと振り返っています。 参加者の皆さんは、それぞれが色々な条件付けの中で活動はされていても、子どもについて、豊かに感じ取ることができる存在であるという認識をワークの早い段階で共有することができたことが、 先にも述べたようにとてもうれしく、美術教育の土台の確かさを感じるひとときとなりました。

濱脇みどり

サブファシリテーター感想

「今日は耳を見た!」。情報交換会直前のわずかな空き時間に、作品の前で記念写真を撮っていた参加者のことばです。 このことばが、濱脇グループのすべてを物語っているのではないでしょうか。 展示室には大きな耳と、複数の小さな耳から成る作品があったのですが、濱脇先生の判断で「大きな耳ひとつで行く」ことを決定。 これが功を奏し、ひとつの作品をじっくりと見る、感じたことを言葉にする、それを共有しまた考えるという観察と思考が循環する時間となりました。 グループのやりとりを記録しながら私自身が何度もうなずいたり、思わず笑ったり、考えさせられたり。参加者のバックグラウンドが活かされ、素材に注目する人、 この作品がもともと好きでたまらなかった人、学芸員として日々作品の前に立ってトークをしている人などの多様な視点からの発言が、最後の授業案づくりにも活かされました。 まさにじっくりと「耳を見た!」グループワークでした。

横山佐紀


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

中学校教諭
  • 時間が限られている中でポイントを絞った意見交流や授業の組み立てが集中して行えるようにゆったりと濃い活動ができた。
  • 一つの作品を長時間かけて他の人と一緒に鑑賞する体験は初めてで自分だけでは感じない感じかたや、 捉え方に触れとても充実した時間になりました。ファシリテーターの優しい、全てを受け入れて頂ける雰囲気が当初緊張していた私の心を和ませて頂き、指導者の発言や雰囲気も鑑賞においてとても重要なことを感じました。
学芸員
  • 様々な角度から多くの視点で一つの作品を見つめることで自分には無い意見、見方が多く見られてとても新鮮で勉強になった。
  • 子ども達と作品をどうやって出会わせるか、どういう狙いを持って作品を出会わせるかをすごく悩んだ。先生方と話しを進めていき、試行錯誤するのが楽しかったので、美術との出会わせ方を大切にしていこうと思った。
  • ファシリテーターの濱脇先生が参加者のひとりひとりをいつもあたたかく見つめ、表情から心をくみ取る姿が印象的であった。グループワーク後も一つのチームとなって互いに話が尽きなかった。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

中学校教諭
  • 生徒同士の交流をのびのびできる、空間づくりをしたいし、互いの考えを学び合い新しい考えを自由に言い合える授業作り、組み立てに生かしたい。
  • 意味や制作意図が明確であったり鑑賞させるのにわかりやすい有名作品を好んで授業に取り入れていると自覚した。現代美術や抽象的な作品でも十分に鑑賞が深められるとわかったのでチャレンジしたい。
  • まずは子どもたちに鑑賞教育をさせるために、いろいろな作品について勉強しなければならないと感じました。自分なりに深めていきたいと思います。
学芸員
  • 作品の見方や作品を他の体験と結びつけて紹介できるような工夫を考えたいと思う。
  • 先生方と密に打ち合わせを行い、授業のねらいを設定した上で、作品との出会わせ方についてグループトークで出た方法を提案してみようと思う。
  • 図工美術について指導をどう進めていいかわからないという声があるので、そういった先生方の研修で活用させて頂きたい。