グループワーク 01

ル・コルビュジエの空間にある祭壇画を味わう

Group 01
受講者:
10名(小学校教諭7名、学芸員3名)
課題作品:
マリオット・ディ・ナルド [1394年-1424年]
《聖ステパノ伝》を表した祭壇画
1408年 
テンペラ・板
国立西洋美術館蔵
1《説教する聖ステパノ/ユダヤ法院での聖ステパノ》
  30 x 57.3 cm
2《聖ステパノの殉教/聖ステパノの埋葬》
  29 x 53.9 cm
3《聖ステパノの遺体を運ぶ航海/聖ステパノと聖ラウレンティ ウスの遺体の合葬》
  29 x 53.9 cm
ファシリテータ:
小野 範子(茅ヶ崎市立小和田小学校 教頭)
サブファシリテータ:
立浪 佐和子(横須賀美術館 学芸員)

《聖ステパノ伝》を表した祭壇画

1

2

3


活動内容


よく見る

1. 自己紹介

自己紹介に併せて、初発の感想として、課題作品が「好き」か「嫌い」かの二者選択で答えてもらう。(7対3で「嫌い」ということであった。「今まで、美術館で足を止めない作品の一つ」、「聖書の内容が分かると面白いのでは」と、知識が必要だという声もあがった。)

2. ファシリテータの鑑賞体験から

小学生のときに衝撃受け不快だったゴヤ、フォンタナ、ボスの3点を紹介。
今はかけがえのない作品。


付箋を貼った部分

みんなで共有

3. ギャラリートーク

(1)一人で見る。
「『何が』『どのように』かかれていますか」「絵からあなたはどんなことを感じますか」と、事実と感想を意識した発問。一人で見て、自分の「ことば」にする時間を大切にする。(それぞれの名前が入った「付箋」を用意。)

(2)みんなでよく見る。見えたことをもとに考える。
あらかじめ作品をトレースし、拡大したものに「付箋」を貼る。
(貼ることによって、「どこから感じたのか」という具体的に場所が分かり、
同じように感じた人の付箋がその場所に増えていく。)

(3)イメージをふくらませていく。


学芸員(サブファシリテータ)から解説

4. 学芸員から解説(サブファシリテータから)

 

(子どもにとって、知識が必要かどうか考える。)







発表(受講者による)


付箋を貼った全体

1. 初発の印象から

武内グループ[グループ5]の発表の中で最初に作品を見たとき「残念」と感想があったが、うちのグループの方がもっと「残念」は上。
「最初にこの絵どうですか」と言われたが、ほとんどの人が嫌いと答えた。




発表

2. 鑑賞の流れ

「一人でよく見る。みんなでよく見る。見たことから考える。」と対話による鑑賞を進めていった。
付箋と作品の輪郭線が拡大された大きな紙が用意されており、一人が貼って発言して、
つながる人がまた貼って発言して深めていくように進んだ。





発表

3. 内容

まず、青い服の人が何回も出てくることに気づき、共有するために同じ人を色分けした。その中で、物語が左から右につながっているように見えてきた。また、外と建物の中を表すために柱みたいなもので区切っているところは、吉本新喜劇の舞台装置みたいだったり、よく見ると真ん中の岩みたいなものをはさんで、2つの場面に分かれていたり、3枚の絵ではあるが、場面は6枚の絵のようになっていることにも気がついた。人物についてみると青い服の男は顔のまわりに金色の環があり、特別な人であるようで、宗教画ということからイエス様のイメージが湧いた。部分的に見てみると、女の人らしき人物がおりマリア様のような人が舟に乗っているシーンで、舟のまわりのドラゴンはマリア様を守っている「いい者」、でも赤が血の色のイメージだから、「死に神」ではないかなど議論をした。さらに、唐突に出てくる一番右側の赤い服を着た人については、これは幽体離脱ではないかなど様々なイメージがふくらんだが、後から学芸員さんから真意を聞くと一緒に埋葬されたことを表していることが分かり、知識によってイメージがくずれてしまう場合もあることが分かった。




発表

4. まとめ

聖書の知識があるなしにかかわらず、絵をよく見て共有し、考えることで主題に迫っていけることが分かり、何よりもいつの間にか絵が好きになっていた。



ファシリテータ感想

ル・コルビュジエの空間に祭壇画がマッチングしているのは、西洋美術館だからこそ味わえる世界です。他の美術館にはない魅力ではありますが《聖ステパノ伝》を選ぶまでにはプチ葛藤がありました。かつては、この祭壇画を前にしてたくさんの方が「祈り」をささげており、おそらく手を合わせて、目を閉じ、静かな時間が流れていただろうと想像できます。そういったなんともいえない厳かな絵を前にして、ギャラリートークをしたら失礼ではないか、また、絵の部分には何かの象徴が隠されており、その正解を求めるだけに終始し、見方が深まらないのではないかと悩んだからです。
しかし、そんなプチ葛藤をよそに、受講者のみなさんが、危険なくらいグッと目を近づけて、新鮮なテンペラのもつ色彩の輝き、画面の硬質感、絵巻物のように展開する物語性に引きこまれ、主題にせまっていくにつれ、改めて鑑賞のつくりだす活動の意味を確かめることができました。人にも作品にも寄り添ってみないと分からないものですね。

小野 範子

サブファシリテータ感想

「げっ、宗教画かよ」というのが、受講者が作品を目の前にしたときの、素直な第一印象でした。でも、鑑賞が進むにつれて、「キリスト教を知らないと楽しめない」という苦手意識は一変、漫才のノリツッコミのようなやりとりも生まれるほどの大盛り上がり。
その後、子どもへ作品の情報提供をするタイミングや必要性、教員と学芸員との連携について、自分の身に置き換えながら真剣に話し合いができたのは、多くの時間を費やした鑑賞が心から楽しめるものであり、それを子どもたちにも体験させたいという情熱が生まれた故と思います。 話し合いを通して、美術館へ行きにくい環境にある学校、子どもが来る機会が少ない館があることも分かりました。でも、戻ったそれぞれの場所で今回得たことを糧に、自分たちに合った、充実した鑑賞を実践する日が来ると信じています。そして、受講者から漏れた「何だか、この絵が好きになってきちゃった」の一言が、子どもたちの口からも聞かれますように。

立浪 佐和子





受講者感想(抜粋)

小学校教諭
  • 一枚の絵をこんなに長く見たことがなかったので、「時間をかけて見る」意味がわかった。一人ではなく何人かで見ると、より深く広く鑑賞することができた。
  • 作品を一人でじっくり見て、見たことをみんなでシェアして、疑問点について深く考えるワークを通して、いつの間にか作品が好きになっている自分に気づいた。一人で見ても、この快さは味わえないと思った。
  • 初めは自分の意見が少数派で不安だったが、いろんな見方をみんなでわいわい言いながら出していくと、楽しくなっていった。“鑑賞は「書く力」のある子が有利”になりがちだが、もっと簡単な方法で見たことや感じたことを表現させ、その楽しさを実感させることが大切だと思った。
学芸員
  • 美術館側からの提案と実際の子どもたちへの伝え方・工夫を同時に伺える機会をいただけたことはありがたいことだった。
  • “自由に”鑑賞してもらう、楽しんでもらうための発問を考える等、大変参考になった。
  • 宗教画を題材としたことで、聖書の知識がなくても作品をどのくらい深く読み取れるかと不安に思ったが、ファシリテータの素晴らしい進行によりぐいぐい作品に引き込まれていった。