グループワーク 03

つぶやきセッション~そのときあなたはどうする~

Group 03
受講者:
10名(小学校教諭6名、学芸員3名、指導主事1名)
課題作品:
ダフィット・テニールス(子)
[アントウェルペン1610年-ブリュッセル1690年]
《聖アントニウスの誘惑》
油彩・カンヴァス 80 x 110 cm
国立西洋美術館蔵
ファシリテータ:
柴﨑 裕(多摩市立豊ヶ丘小学校 教諭)
サブファシリテータ:
井上 絵美子(国立新美術館学芸課 研究補佐員)

《聖アントニウスの誘惑》




活動内容

  1. ウォーミングアップとして自己紹介しながら、本館フロアギャラリーの散歩
  2. 途中で美術館の建物(ル・コルビュジエ)でのギャラリートーク(トーカー柴﨑)
     建物を味わいながら、ギャラリートークについても全員で体験
  3. 『つぶやきセッション~そのときあなたはどうする~』
     課題作品を2グループに分けて設定

小学校4~5年生が西洋美術館に来館、
この作品で授業をすることになりました…

プログラム時間:20分~30分
人数:10名以下、持ち物は筆記用具程度

ギャラリートーク/ギャラリーでの簡単な活動・パフォーマンスをして、初めての美術館体験を楽しいものにしたい。
…その時、あなたはどうする?


つぶやきセッションについて話し合う受講者たち

つぶやきセッションの検討事項(以下の3点を考える)

(1) 展開上、この絵にある最も着目したい事実(ポイント)のベスト3は
  何ですか?
  なぜ、そのポイントをベスト3にするのか理由も考える
(2) そのポイントを盛り込んだ展開のアイディアを2~3つ出す
  例1:ポイントを引き出す発問、展開を促す発問は?
  例2:ポイントから鑑賞を深める活動やパフォーマンスを構想する
(3) この授業の「終末、着地点、しめくくり」をどうするか?

  1. つぶやきセッションのシェア
  2. 夏の誘惑名言集の作成
  3. 誘惑から覚めて帰れば現実が~聞いてほしい私の悩み~

発表(受講者による)

ギャラリーフロアを散歩しながら自己紹介し、いきなりこの美術館の建物でのギャラリートークが始まった。「円柱がある」「天井の高いコーナーと低いコーナーがあって独特」「小さな中二階に部屋があり、窓がついている」「変なところに階段がある」…様々な気付きを共有していたところに、たまたま西洋美術館の寺島さんが通りかかり、この建物を設計したル・コルビュジエの構想を教えていただいた。


絵の中の人物を演じる授業を想定して

この建物ギャラリートークから、その方法や面白さを体感しながら、いよいよ課題作品テニールス作品の授業構想に取り組んだ。この作品にあるポイントとなる事実を3つ挙げて順位を付け、それらのポイントをいかに授業で生かすか、そのためにはどのような指導者の問いかけが有効か、また終末をどうすればよいかを課題として構想した。

この絵は、一見した普通の表向きの奥に、いくつもの秘密が隠されていた。様々な妖怪、奇怪な生き物に溢れて、果たして人間はどこにいるのか?まなざしがさまよう。メンバーで繰り返し確かめ、「見る」を深めていく楽しみとともに課題に取り組んだ。最終的に展開時の有効な発問として「人間は何人いますか?」を、まとめることができた。最後の活動として(1)劇化する、(2)絵のワークシートに吹き出しを作り記入する…を構想し、両案を補い融合するようなアイディアにまとめてグループワークを終了した。


ファシリテータ感想

西洋美術館本館には独特の空間構造がある。床と天井の迫る小品の壁面、それに対面して大作の並ぶ大きな壁面が共存している。大小の空間を行き来しながら、観者はこの美術館の歩みを進める。受講生のみなさんに出会い、私はまずこの建築を対象に対話を始めることにした。感じたことを自由に表し対話から「見る」を深める活動は、対象が何であれ可能だし、何よりも参加者をつなげて一体にするからだ。 そして《聖アントニウスの誘惑》。この絵には私たちの惰性的なまなざしと西洋美術への思い込みを砕く、静かな「しかけ」が施されている。その「しかけ」に一度視線が留まると、誰もが他者に、自らの驚きを「つぶやき」にして発したくなるだろう。もしその時、一人でいたら、明らかに鑑賞の喜びは半減するに違いない。「誰かと見ること」は、それほどまでに私たちの体験に意味をもたらす。そのようにしてこの作品は、長い時をかけて人々を結びつけ、対話を促してきたに違いない。美術がもたらすそんな営みの一端がグループワーク『つぶやきセッション』だったのかもしれない。

柴﨑 裕

サブファシリテータ感想

指導者研修の醍醐味とは何か。それは、様々な立場の鑑賞教育に携わる人間と、子どもたちがどうしたらより良い鑑賞ができるかということを話し合い、鑑賞教育が実践の場でどうあるべきかを考えることなのではないだろうか。
柴﨑グループでも、こうした場面が見られた。授業の実践において、絵の中の登場人物の会話を考えてもらう際に、その人物をこちらが選んでしまうのか、それとも、子どもたちに人物を選ばせるのか、という二つの意見の対立。30分の授業ということとなると、考えさせている暇はないという現実的な意見と、選ぶ人物を考えさせることで創造性を与えたいという意見がぶつかりあう。明確な答えは出なかったが、各々が意見を発することで様々な考えを知り、鑑賞教育に対する考えを深めていく。
ファシリテータの柴﨑先生が「誰かと見ること」の大切さを強調しているように、「誰かと考えること」もこの指導者研修の大事な活動なのではないかと感じた。

井上 絵美子



受講者感想(抜粋)

小学校教諭
  • 対話型ギャラリートークではまず思ったことをなんでも発言し、共有することが大切だとわかった。
  • ギャラリートークの楽しさ、おもしろさを自分が体験して味わうことができた。ぜひ、自分の授業で実践していきたいと思った。
  • 4時間は長いなと思ったが、あっという間だった。絵を見るのは楽しいと実感できたので、この体験をぜひ子どもたちにも味わわせてあげたいと思った。
学芸員
  • 普段自己流で行っているギャラリートークの組み立て方や問いかけの仕方のアイディアをたくさんいただけた。
  • ファシリテータの導きは、言葉・表情など様々な点について学ぶところがあった。対話型鑑賞は小学生には非常に有効と感じられたが、個人的にはより反応の薄くなる中学生の鑑賞に興味があったため、中学生グループの取り組みも知りたかった。子どもの言葉を引き出すことと、情報の提示の関係について、今後実践の上考えていきたい。
指導主事
  • 2つのグループに分かれて、子どもたちへの指導に向けての構想を練り、後半でそれをシェアするという進め方もとてもよく考えられたプログラムで良かった。