グループワーク 10

ゆっくりと見る・じっくりと見る

Group 10
受講者:
10名(中学校教諭8名、学芸員1名、指導主事1名)
課題作品:
ジャン=フランソワ・ミレー
[グリュシー1814年-バルビゾン1875年]
《春(ダフニスとクロエ)》 1865年
油彩・カンヴァス 235.5 x 134.5 cm
国立西洋美術館蔵
ファシリテータ:
小池 研二
(横浜国立大学教育人間科学部人間発達学科 准教授)
サブファシリテータ:
青野 和子(原美術館 主任学芸員)

《春(ダフニスとクロエ)》


活動内容

ゆっくりと見る・じっくりと見る

今回のグループワークはとにかく「ゆっくりと見る、見て感じて考える」ことを中心に据えた。
許された時間の中で、できるだけ作品と対峙することにより深い鑑賞、豊かな鑑賞とは何かを考える時間としたかった。
また、作品名、作者名等の作品解説は他のグループ同様に隠した状態で行い、終了間際に作品解説プリントを全員に配布した。


始めのギャラリートーク

簡単な自己紹介の後、全員で2~3分作品をじっくりと見た後で、後ろ向きになり何が描かれているか一人一つずつ挙げてもらった。その後、再度作品を見ながら画面上に描かれているものをどんどん見つけていった。背景の海に浮かぶ船や遠くの浜辺の人物など画面の細部にまで目が届くようになった。
さらに、2人の年齢、画面上のモチーフの意味、季節、場所、時間といったことにまで話が及んだ。そして絵についてのストーリーが参加者の中で考えられていった。表面的な事物を見るだけでなく参加者全員が画面の構成要素を見つけ話し合うことによってより深い次元の鑑賞につなげていった。

「鑑賞の方法」をみんなで考える

次に参加者が普段の授業や活動などで問題に思っていること、疑問に思うことなどを全員から出してもらい共有することにした。図版を何にするか、発言の苦手な子はどうするか、人数、教室で行う場合のサイズ、印刷物か映像か、など多くの問題点が出たが、実際に授業を行うための環境整備や教師の役割、美術館との連携、評価のあり方等について話し合うこととした。

午後は午前中の振り返りのあと、鑑賞における問題点について今回の作品と関連づけながら話し合った。このグループでは学校現場で《春(ダフニスとクロエ)》を使った授業を想定しながら問題点を考えていった。図版においてはプロジェクションにより現物大を体験しつつ、手元に鮮明なカードを持たせるなどの方法が考えられた。また、美術館ではポスターなどの複製印刷物や画像データ提供などが近年行われていることが報告された。環境面については例えば教材制作は教師同士の連携による解決策も述べられた。その他、ファシリテーションの仕方、評価について等が話し合われた。評価については、自分なりの見方や根拠をつなげてまとめるなど具体的なところまで話が及んだ。





発表

発表~内容に沿って

本グループの発表は参加者の先生にお願いした。短い時間であるので内容をコンパクトにわかりやすく伝えてもらうようにした。結果的にはグループワークの時間的な流れに沿った具体的な発表で大変わかりやすいものであった。実物作品の前で発表が行われるため、聞き手にとってもイメージがつかみやすかった。発表時は展示場所の関係で奥行きがやや取りにくく、聞き手が横に広がった形での発表となったが明るく開放的な空間であったため、のびのびとした感じでの発表となった。
発表内容は上記の活動内容をそのまま手短に要点をまとめたものである。午前中の活動については、まず作品について全員がじっくりと見ることについて発表した。描かれている内容を参加者が言っていく中で、始めは気づかなかったことに少しずつ気づいていくこと、表面を追っていただけの鑑賞から絵の内容について考え、作者の制作意図について考えていく鑑賞にまで発展していったことについて発表した。

「鑑賞の方法・鑑賞の大切さ、面白さ」を共有する

次に本グループのテーマとした「鑑賞の方法」について発表した。本物を使った鑑賞が無理な場合どのような方法が考えられるのかなどについて言及した。環境面については上記の通り、人数や時間等が問題となった。学級人数は35人を基本とせねばならないこと、いろいろなタイプの作品に接する機会を提供する授業時間を考えること、教材は教員間で連携するなどして共有していくことなどが発表された。ファシリテーションの仕方については生徒に「おもしろそう」という興味を持たせることが重要であること、表面的なことより、もっと深いところに時間をかけることなどが提案された。

班で活動する中で生徒の中にファシリテータを育てていくことも考えられる等が報告された。





ファシリテータ感想

見ること・好きになること

裕福な家の装飾のために描かれたというこの絵は、《晩鐘》や《落ち穂拾い》といった農民の生活を描いた我々がよく知っているミレーの絵とは印象が違う。2人の主人公の何とも愛らしい姿を描いているこの絵は、ゆっくりと見ることで多くのことを語ってくれる。私がこの作品を対象とした理由のひとつである。作品とじっくりと対峙し鑑賞の面白さを参加者と共有することを目的とした今回のグループワークでは、できるだけシンプルな内容としたかった。作品を前にして語り合う中で多くのものを発見してもらえればと考えたからである。また、学校現場を念頭に置いた美術館との連携を具体的に考えていこうと思った。グループワークをしていく中で先生方の鑑賞にかける熱心なおもいがひしひしと伝わってきた。最後に「おそらくワークをしなかったら素通りするだろうこの絵が好きになってきた」という参加者の先生の言葉が何とも嬉しく感じられ、ありがたく思った。

小池 研二

サブファシリテータ感想

まず、小池先生のファシリテーション全般については、「本当に素晴らしい!」と感服いたしました。 最初は「いきなり始めるのですね」とちょっとオドロキましたが、とにかく「徹底的に作品を見て言語化する」方向性は、大変勉強になりました。我々現場の学芸員は、「いつでも現物がある」環境に慣れ過ぎて、作品から離れてしまう傾向もまま見受けられますので。
また、小池先生の議論の導き方にも、教えられるポイントがたくさんありました。ご参加の先生方も、同様のご感想だったように記憶しております。 強いて別の方向から申し上げるとすれば、「美術館を活用した」と表題にあり、現場美術館の学芸員もメンバーにいらっしゃいましたので、もう少し、美術館と学校のリレーションについての話が膨らんでも良かったのかしら、とも思いますが、そうすると、当然、今回成立した議論の何割かはできなくなったわけですし、参加者の総意で議論のポイントを作っていったので、時間配分としては致し方なかったのかもしれませんね。作品観賞に際しての知識の共有の是非など、興味深いお話がたくさん聞けたことは、サブファシリテータ冥利につきました。同じ中学校の先生方でも、本当にさまざまなお考えがあるものですね。本当にありがとうございました。

青野 和子



受講者感想(抜粋)

中学校教諭
  • 鑑賞教育を実践している全国の先生方の指導上の悩みや問題点を共有でき、大変ありがたかった。
  • たくさんの意見や考えを聞き、迷いも疑問も持ちスッキリしない部分もあったが、そのことに気づき向き合ったことが今回の糧なのだと思った。
  • 成果は「ファシリテータ」という考え方に触れることができたこと。
  • 他のグループの手法も体験してみたい。また、発表時間6分は短くわからないことが多い。
  • 普段はあまり相談する仲間もおらず一人でやっているので無難な方向に逃げがちだった。様々な取り組みをされている先生方とお会いできて大いに刺激を受けた。ファシリテータとしての自分、評価に関することなど、課題が明確になったことも収穫の一つ。
  • 他者の意見を聞くうちに、自分自身の見方がどんどん変容していくのが楽しかった。素材の選定、鑑賞ポイント、評価の視点等現場ですぐに役立つ情報も多くいただけ、とても刺激を受ける研修だった。
指導主事
  • 発表は小学校の分も見たかった。