グループワーク 07
中学生の鑑賞活動を考える
- 受講者:
- 10名(中学校教諭8名、学芸員1名、指導主事1名)
- 課題作品:
- クロード・モネ
[パリ1840年-ジヴェルニー1926年]
《睡蓮》1916年
油彩・カンヴァス 200.5 x 201 cm
国立西洋美術館蔵 - ファシリテータ:
- 田中 晃(川越市立美術館 主任)
- サブファシリテータ:
- 中村 貴絵(横須賀美術館 学芸員)
活動内容
【午前の活動】
- アイスブレイク
- 二人組で向かい合って手元を見ずに相手の顔を描く~交換~談笑
- 自己紹介
- 描いてもらった顔を見せながら、1分間で自己紹介
- 活動(1)
- 個々に渡した鑑賞カードを手がかりに中学校1年生の気持ちになって作品を探す。
※鑑賞カード:モネの作品10点それぞれの一部分をトリミングしたカード - 活動(2)
- 実物を鑑賞し、オノマトペ(擬音、擬声、擬態語)を使って表現してみる。
- 順番に紡ぎ出した言葉を紹介しながら全員で一緒に見る。
- 感じたオノマトペの言葉を紹介し、感想などを述べた後に他のメンバーが質問をする。
※みんなで見る活動を重視。面白さや大切さを実感しながら鑑賞の意義を探る。
午後の活動では自分にとっての着地点をどのように設定して研修に臨むかを考えておくことを宿題として昼食・休憩に入る。
【午後の活動】
- フリートーク
- 昼食後の歓談として、鑑賞教育に対する個々の思いや、美術館の生かし方などについてフリートークを行う。
- 付箋紙を用い分類
- 鑑賞教育に期待することとして、「指導者の思い」「生徒の学び」「美術館との連携」の観点から付箋紙を使い思いつくものを書き出し、分類する。
- 作品の活かし方を探る
- 作品との出会い、生徒の感じ方、作品への注目のさせ方、何を感じてほしいか、どのように感じさせるか、どこでモネや印象派についての知識を必要とするか、など生徒の鑑賞活動の過程を考えて作品の生かし方を探る。
- 現実との比較
- 分類の中のポイントを明確にしながら、地元の現状や課題に照らして考えてみる。
- 今後の展望
- 鑑賞教育についての考えを深めるとともに、今後の展望などを話し合い終了。
発表(受講者による)
【前半部分の活動から】
・お互いの顔を描く活動から入り、和気あいあいとリラックスして作品鑑賞に入った。
・自己紹介からそれぞれ現在の立場や経験から鑑賞に対する考え方を知る事ができた。
・部分から作品を探すことで実物をよく見て、様々な特徴に気づくことができた。
・中学生になった気持ちで自由に意見や感想を述べ合う事で多くの鑑賞の視点を得た。
・人によって見え方が違う事や作品との距離によって見え方が変わることに気づいた。
・何回も見ていたはずなのに今回初めて気づかされた(考えた)ことがたくさんあった。
【後半部分の活動から】
・午前の感想や鑑賞への期待、美術館の使い方・要望から午後の活動を開始した。
・鑑賞の時間への教師の思い、生徒の実態などを洗い出して課題を見つけ、話し合えた。
・生徒に興味関心を持たせる方法や知識をどこで必要とするかなどの具体策が多く出た。
・モネの作品を鑑賞する中で日本美術との関わりを意識したプログラムも示唆された。
・今回のように他と比較しながら見ることも多くの発見や気づきに出会う鑑賞ができる。
・豊かな鑑賞の活動は、見る→考えて伝え合う→また見る、の繰り返しがスパイラルとなって上昇し個人の価値の創造として深まるイメージである。
【成果と課題】
実物の作品に出会う機会はとても貴重で豊かな鑑賞ができる。しかし、その出会いをどう演出するかが教師や学芸員に求められる課題である。鑑賞の方法や作品のよさの感じ方は人それぞれであるが、与えられた知識としてではなく、自ら「作品のよさを見る力」を獲得できるような鑑賞教育の実践が我々の最大の使命であり、願いであり、課題であるということを再確認した。
ファシリテータ感想
十数点ものモネの作品に囲まれたとても贅沢な空間で、鑑賞教育に対する強い思いを語り合い、自己を見つめ、互いに新たな刺激を得た至福の時間だった。これがファシリテータとしての正直な感想です。このような時間を共にできた参加者、サブファシリテータの皆さんに心から感謝します。美術とどう関わるか、それを生徒個人の問題として捉え、鑑賞の活動を通して豊かな感性を育みながら、生き方、考え方にまで影響を及ぼす。そのような人間としての営みを大切に、その責任を担う立場としてますます強い思いとアイディアがわき出てきたように思います。この研修を生かして、学校と美術館双方の協力と大きな鑑賞教育の波を参加者それぞれの地元で起こしていけたらと願っています。
私自身が大変有意義な研修となりました。ありがとうございました。
田中 晃
サブファシリテータ感想
田中Gのグループワークは、自己紹介もないまま、まずは2人1組向かい合わせになり、お互いの似顔絵を、手元を見ずに描くことからはじまりました。気づけばメンバーの口元には笑みが浮かび、一瞬で場の緊張はとけていきました。名前や経歴は知らなくても、相手を見て、顔を描くという単純なきっかけが、メンバーの距離をぐっと縮めたように感じました。「鑑賞はスパイラルを描いて上昇していく」という話が深く印象に残っています。作品を観て気になるところを発見すると、それを解決するために、誰かに話したり、調べたりする。そうしてまた作品に向き合うと、また新たな気になるところが見えてくる。そういう豊かな鑑賞を、子どもたちに経験させたいと話し合いました。そして、充実した鑑賞を実現するためには、なによりも「きっかけ」が重要であり、それを担うのが私たちである、という再認識へ至ったのでした。メンバー全員が情熱を持って教育に取り組んでいることが分かり目頭を熱くした場面も。これまでにない充実した時間を過ごすことができました。
中村貴絵
受講者感想(抜粋)
- 中学校教諭
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- グループワークは授業等でも活かすことができる形で良かった。発表は時間が短かかったことが残念だった。
- 一つの絵をこんなにも集中して鑑賞するのは初めての経験だった。そして、他者の意見を聞くことで見方が深まることも実感することができた。
- グループワークでは美術館との連携を考えながら鑑賞の授業を考えた。田中先生のファシリテートのもと、発想を大きくひろげながら中学生になったつもりで、鑑賞を行った。子どもの視点に立ち楽しく鑑賞していく方法を考えていくことができた。
- 和気あいあいと、考えたことを述べやすかった。その雰囲気づくりが大切なのかもしれない。
- 展示作品の空間を楽しみ味わいながら、本物から受ける印象を感じながら鑑賞できた。また、鑑賞教育における作品との対話の手法が体験でき、有益であった。
- 学芸員
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- グループによって内容的にバリエーションがあるというのが良かった。
- 指導主事
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- 実際の作品を前に鑑賞というテーマでそれぞれの立場の方の内容の濃い話を聞く良い機会となった。