グループワーク 06

美術館に中学生を連れて行く/迎えるために

Group 06
受講者:
11名(中学校教諭9名、学芸員1名、指導主事1名)
課題作品:
ギュスターヴ・クールベ
[オルナン1819年-ラ・トゥール・ド・ペイル1877年]
《罠にかかった狐》1860年
油彩・カンヴァス 81.5 x 100.5 cm
国立西洋美術館蔵
ファシリテータ:
弘中 智子(板橋区立美術館 学芸員)
サブファシリテータ:
濱脇 みどり(西東京市立田無第一中学校 教諭)

《罠にかかった狐》


活動内容


付箋紙に書いた美術館での鑑賞授業の
悩みをグルーピングする

自己紹介と学校での美術館活用状況報告

まずは学校と美術館との連携の現状について尋ねたところ、修学旅行、遠足で美術館に行ったことがある、という先生はいらしたが、実際に美術館との連携授業をしたことのあるケースは少数であった。美術部など関心の高く、動きやすい生徒たちを連れて美術館へ出かける学校も。連携授業については、行きたいけれども学校から美術館まで遠いために学校で出かけるのが難しい、逆に美術館から出前授業に来てもらった、など。
それには、生徒指導などで先生自身が多忙である、などの学校の事情も関係する。美術館側からは遠足など限られた時間であっても個別に対応できる、という話が出た。


グルーピングされた悩み

お悩み相談会

付箋紙を使って学校単位で美術館へ行く際の問題点や悩みを挙げた。
距離、時間の確保といった物理的な問題に加え、多かったのが学校全体、他の先生からの理解を得るのが難しい、とのこと。
美術館へでかけるとどのような利点があるのかを学校全体にアピールする必要もあるようだ。
授業時間を使って美術館へ行くからには、鑑賞についての評価をどのように行うか、ということはどの先生も悩んでいる様子。また、美術館へ連れて行ったとしてもどのようなことを美術館、学芸員にお願いできるのか分からない、という話もでた。

美術館で生徒たちに何をさせたいか

改めて学校単位での美術館訪問の目的を再確認した。本物を見る体験をさせる、作品を見る、楽しみを知る、など。


1人で黙って作品を鑑賞

《罠にかかった狐》を鑑賞する

作品をまずは1人で黙って、続いて2人で話しながら、最後は4人で話しながら鑑賞。複数で見ることで違う見方ができる、作品をより積極的に見ることができることを実感。
続いて、対話式のギャラリートークを体験。作品の気づきをみんなで共有することで、新たな解釈も生まれた。



2人1組でお話をしながら作品を鑑賞

学校から美術館へのリクエスト、美術館から学校への提案

学校の先生と美術館学芸員、学芸員経験者に分かれてそれぞれの意見を交換した。
先生からは対話式のギャラリートークを体験させたい、事前学習のための資料を送ってほしい、など。
美術館からは時間、人数など要望に応えた対応ができることを紹介した。




美術館と中学校の連携のために

最後に今後の課題を確認した。美術館と中学校を結ぶために 「すぐに実行できること」「長期計画」「夢」に分けて考えた。 「すぐに実行できる」のは美術館や学芸員を訪問する、出張授業を依頼する、学校に理解を求める、など。「長期計画」は連携授業を行う、生徒が美術鑑賞を楽しみにできるようにする、など。「夢」は子どもたちの作品、子どもたちによる美術館づくり、など。


4人1組でそれぞれの意見を出し合いながら作品を
鑑賞


美術館と中学校の連携のために「すぐできる」
「長期計画」「夢」を書き出す


中学校、美術館に分かれて中学生を美術館で
迎えるために必要なことを話し合う


発表


発表

記録係の濱脇先生による報告。
グループワークの流れに沿って先生からの意見や反応を紹介した。

先生たちの美術館連携授業の悩み
学校全体が美術館での鑑賞の授業に理解をしてもらう、授業として出かけた場合の評価の問題、物理的時間的な制約など。
作品鑑賞
1人、2人、4人と人数が増えるごとに意見交換が活発になる。作品に対して新しい見方ができる。意見を聞いて、受け入れてもらえることの喜び。生徒同士が理解するためにも役立つ。 グループ全体で体験したギャラリートークでは作品の細部への気付きが増えること、新しい解釈をみんなで作り上げる一体感もあった。
美術館と学校の連携
対話型のギャラリートークに加えて、立寄式のギャラリートーク、事前授業、出前授業、資料の提供など、学校のニーズに合わせた対応ができる。まずは美術館、学芸員へ相談をすることから始めよう。
明日からでもできる、美術館と中学校の連携
それぞれの学校、美術館の事情に合わせてまずは行動すること。美術館ではいつでも相談を受け入れている。生徒たちにも本物の作品を見る感動、楽しみを持ってほしい。

ファシリテータ感想

学校、美術館の抱える問題点から
すぐできる連携への第一歩まで

私の職場では、残念ながら中学校との連携授業が行われていない。美術部の生徒を数回案内したことがあったが、夏休みのレポートを抱えてやってくる生徒たちを見るくらいである。博物館学のレポートで来る大学生に比べて、中学生から自発的な質問などはなく、彼らは来館しパンフレットを持ち帰り、いそいそと帰って行く。そのため、中学校の先生がどのような悩みがあり、また今後美術館をどのように活用していきたいのか、を整理し、また美術館側からどのような提案ができるのかを考える良い機会となった。
学校の中では時間の確保、全体の鑑賞教育への理解や協力といったものがネックになっていることは確かである。しかし、美術館側からも出前授業を行い、事前学習のための資料提供などは簡単にできる。学校の先生が気楽に相談のできる環境づくり、美術館の鑑賞プログラムの積極的なPRも必要だということが改めて確認できた。また、思春期を迎えた中学生は小学生に比べると対話式ギャラリートークの場合は反応がないのではないか、と危惧していたが、生徒同士の対話のきっかけとなる問いかけを行い、質問を自由に受け付けられる体制作りなど、中学生の関心に合わせたプログラム作りが必要だということを実感した。

弘中 智子

サブファシリテータ感想

弘中(きつね)グループのワークは、まさにファシリテートの意識に貫かれたものだったと振り返っています。日本各地から集った様々なキャリアを持った受講者の、それぞれの事情やニーズをつなぎ合わせ、交流することが主眼となったワークでした。グループワークは、まず受講者自身が美術館と学校との連携をする上での困り感を出し合うことで自分達の立ち位置を確認し、その上で対話型鑑賞の醍醐味を味わうことと自分自身の美術館、学校とのつながり方を体感的にイメージし、実践者としてのこれからの方向付けを行うという流れですすめられました。もしかすると参加者のうち誰よりもお若かったかもしれないファシリテータの、お互いの言葉に耳を傾けそこから学ぼうとする姿勢が、爽やかな印象となって残りました。作品の前で話し合うことの楽しさと、美術館と学校との間の距離を縮めることへのリアリティを参加者の皆さんが強めることのできたワークだったのではないかと思います。

濱脇 みどり





受講者感想(抜粋)

中学校教諭
  • 日頃感じていた思いや疑問が自分だけではないという共感と、地域ごとにまた違ったアイディアや悩みがあるのだという発見があった。
  • 意見を聞きやすく、また発表しやすい人数構成で良かったと思う。他のグループワークの発表については、時間も短く、メモも取りにくい状態だった。
  • 美術教員は学校に一人しかおらず、美術館を活用した鑑賞教育に対する悩みや不安を互いに出し合い、ずいぶん解決、解消された。
  • グループワーク発表をその分長くとってほしかった。質問の時間もほしかったように思う。
  • グループによって違った鑑賞のグループワークができ、いろいろなグループワークが聞けて良かった。自分のグループワークでは、各先生の鑑賞指導が聞けて今後の参考になった。
  • リラックスした雰囲気で、一つの作品について様々な意見を出し、聞くことができた。1人で鑑賞するよりも2人、2人より4人と、鑑賞に広さと深さが増していくことを体感した。
  • 様々な先生方や学芸員の方の話が聞けて、また意見を言えて良かった。他の都道府県の現状の違いも、興味深かった。改めて、ギャラリートークの魅力に気づくこともできた。