グループワーク 02

問いを生みだす言葉かけ

Group 02
受講者:
10名(小学校教諭8名、副主幹1名、学芸員1名)
課題作品:
ジョルジョ・ヴァザーリ
[アレッツォ1511年-フィレンツェ1574年]
《ゲッセマネの祈り》1570年頃(?)
油彩・板 143.5 x 127 cm
国立西洋美術館蔵
ファシリテータ:
西村 德行(筑波大学附属小学校 教諭)
サブファシリテータ:
平谷 美華子(東京富士美術館学芸部学芸課 学芸員)

《ゲッセマネの祈り》



活動内容


アートカードを使ったカルタ遊び

1.アートカードでカルタ&自己紹介

アートカードでカルタ遊びを行った。一人に3枚ずつ配り、その読み札を書く。それぞれ個性あふれる「読み札」には、実際に描かれていることから、そのアートカードをみて感じたことまで、様々なことばが書かれていた。なお、絵札と読み札の組合せがあっているかどうかは、絵札を書いた方にジャッジをお願いし、続いてその理由と自己紹介を行っていただいた。



作品にじっくりと向き合う

2.見つけたり感じたりしたことを記録する

作品にじっくりと向き合う時間をつくった。腰を据えて作品を眺めると、初見ではなかなか見えなかったことが見えてくるなど、新たな発見がある。そこで全員に、作品画像の印刷されたものを配布し、実際に描かれていることや見て感じたことなどを、枠外にメモしてもらうことにした。ここでの発見が、その後の「問い」を考える際の、それぞれの大切な資料となる。



質問を分類する

3.「問い」を生みだす言葉かけを考える

ここからは、二つの班に分かれて活動することにした。お題は、子どもたちに「問い」が生まれる言葉かけを考えてもらうこと。作品が目の前にあったとしても、「どう?」という言葉かけでは、子どもたちの視線は作品に向かわず、主体的な鑑賞活動ははじまらない。そこで効果的だと思う質問を付箋に書いてもらうことにした。



付箋をならべて、授業プランをつくる

4.授業の展開を考える

付箋には、絵の中の人数を問うものから、寝ている人物がどんな夢をみているのかを考えるものまで、様々な言葉かけが書き出された。そこでその言葉かけを分類し、それをもとに授業の展開を考えてもらうことにした。模造紙の上に付箋を並べ、いくつかの授業展開が考えられたが、その中でこの活動のねらいをどこに置くかが話題となった。


発表


発表

発表では、子どもたちに「問い」が生まれる言葉かけをどのようにして考えたのか、午前からの活動の流れに沿って報告がなされた。
はじめに、参加者自らが、作品とじっくりと向き合ったときに感じた疑問について、発表があった。イエスは天使と何をしているのか、天使の目線はどこに向いているのか、なぜ長袖を着ているのに裸足なのか、ひとつの作品の中になぜ違う場所や時間が描かれているのかなどなど、じっくり見たからこそ浮かんできた疑問が紹介された。
そして次に、授業プランを検討した模造紙を見せながら、考えられた「質問」にはどのようなものがあったのか、その分類について、具体例を示しながら説明がなされた。またそれらをもとに構成された授業プランについても、付箋で例示しての説明があった。 最後に発表者から、「絵に題名をつけるとすれば?」という投げかけがあり、グループのメンバー一人ひとりが、自分の考えた題名を発表し、グループ発表を終えた。


ファシリテータ感想

これまでの研修では、子どもたちが作品の中からお話を見つけたり考えたりするには、どのような手立てが必要であるのか、子どもたちの見方や考え方を充分に引き出す方策について、参加者の先生方と検討してきました。今回の研修でも、もちろんその流れは変わりません。しかし変わっているとすれば、今回の作品には、背景となる明確なお話があるということです。
今回の研修では、あえて宗教画を選びました。それは背景のお話がチラチラと見えるこのような対象だからこそ、創造的な鑑賞活動のあり方について、議論が深められると考えたからです。ファシリテータの力不足もあり、不完全燃焼の感も否めませんが、様々なお立場から、「問い」を生みだす言葉かけについて、ご検討いただきましたことに、心から感謝申し上げます。有り難うございました。

西村 德行

サブファシリテータ感想

西村グループはヴァザーリの宗教画『ゲッセマネの祈り』を鑑賞。本作のように決定された物語がある題材をどう鑑賞教育に生かすか。念入りな教材研究で題材の利点を掴むことがいよいよ重要だと思った。本作は構図の一つ一つは意味ありげで明確。よって投げかけ次第で鑑賞者の意見を引き出しやすいとも言える。しかし、そもそも大人は一目見て、宗教画であり何かの物語の一場面だと感じるが、子どもたちは作品に物語があること自体が前提ではないことを思うと、例えばその「物語性」に気づかせる目的での鑑賞も可能だと思った。最後に「知識」を与えるか否かとの意見が出、勿論、鑑賞の目的、発達段階に応じて柔軟に考えるべきであるが、知識欲が高まった時に適宜情報を伝えることは、充足感や興味関心の喚起等、教育においては重要であると思った。
私自身、補佐業務として不届きな点も多々ありましたが、貴重な業務に携わらせていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

平谷 美華子




受講者感想(抜粋)

小学校教諭
  • 「問いを生みだす言葉かけ」というテーマのもと、実際の授業をイメージしながら話し合えたことは、とても参考になった。
  • その一方で、グループの中でもあまり意見を言えなかった人をつくってしまったことや、自分の発表を上手にまとめられなかった点で、ちょっと満足できなかった。発言しなかった人の考えも聞きたかった。
  • 絵を見るきっかけとしてアートカードを使った実践があった。ゲーム感覚でじっくりと絵を見て、表現することができて良かった。
  • 宗教画の鑑賞は初めてで難しかったが、何かを見つけようと必死に見て言葉を探しました。見た感じを言葉で表現することは、自分を見つめることだと感じました。子どもたちに問いかける言葉を考えることで、具体的な手法を学ぶことができて良かった。
学芸員
  • 先生方の鑑賞教育に対する認識を聞くことができて良かった。こちら側でのフォローすべき点が見えてきたように感じた。
  • 一つの作品について、発表が終わるまで、「正解」を知らぬまま考えた。結果、事前情報がなくてもかなり作品の深いところまで近づけることがわかった。対話型ギャラリートークとかあまり難しく考え過ぎなくても、みんなで作品を見ることで得るものは大きいように思った。