グループワーク 08
中学生の言語活動
- 受講者:
- 10名(中学校教諭8名、養護学校教諭1名、学芸員1名)
- 課題作品:
- オーギュスト・ロダン [パリ1840年-ムードン1917年]
《接吻》1882-87年頃(原型)
ブロンズ 87 x 51 x 55 cm
国立西洋美術館蔵 - ファシリテータ:
- 三澤 一実 (武蔵野美術大学教職課程研究室 教授)
- サブファシリテータ:
- 亀井 愛 (三井記念美術館 教育普及員)
活動内容
みるを探る。ことばで探る。
今回は彫刻作品の鑑賞である。そしてグループワークのテーマは言語活動である。私達は言葉を使っていかに鑑賞を深めることができるかをワークショップ形式で考えてみた。
立体作品は様々な角度から観察したり、触察して感じ取ったり、鑑賞の手立ては平面作品より多く存在する。今回、ロダンの彫刻を鑑賞するにあたっては綿手袋を用意し、受講者がペアになって、彫刻に触れて感じたことを話し合った。また、彫刻の一番美しく感じる位置を探したり、どうしてその位置が美しいと思ったのか互いに言葉で説明したりした。感じたことを言葉にすればするほど、言葉では表現できいない彫刻の魅力が見えてくる。私達は作品を見てできるだけ言葉にする試みをした。
新しい鑑賞の手法にも挑戦した。デジタルカメラを使ったドキュメンタリー鑑賞である。ドキュメンタリーと言っても、彫刻を鑑賞する自分の視線を取り込んだドキュメンタリーである。デジタルカメラのムービー機能を使って言葉を添えて撮影していく。結果として作品を見つめている自身の視線が映像として記録されていく。一度撮影してはモニターで確認し、修正を重ね再度撮影をする。それを何度か繰り返し、各自が感じた彫刻の魅力を存分に語る映像を作成する。
出来上がったドキュメンタリーは鑑賞者の視点を見る者に共有させ、添えた言葉とともに映し出された映像によって作品の新たな魅力に気づかせる。言葉を尽くしても尽くしきれない造形の魅力は、映像と撮影者の心の動きを語るナレーションの力を借りて我々に伝わってくる。言葉と映像は互いに補完し合い、撮影者の感じ方をリアルに伝えてくれるのである。この言葉と映像を使ったドキュメンタリーは、私達に彫刻作品の楽しみ方を、一人ひとりの視点を通して提供する取り組みとなった。
発表
ファシリテータ感想
鑑賞は表現と一体化することで更に深まっていくのではないか。そんな仮説を持って臨んだ今回のワークショップである。表現としては言葉によるバーバルコミュニケーションと、言葉によらないノンバーバルコミュニケーションの相反する表現を一体化し鑑賞の手立てとしてみた。即ち、映像によるドキュメンタリーである。昨年度は、作品を徹底的に言葉に置き換えて鑑賞してみた。しかし、時間が経つにつれ言葉が作品を上滑りし始め、どうしても作品が生まれた社会背景だの、作者の考えなどに行ってしまう。もちろんその様な鑑賞も悪くはない。しかし今回はもっと作品そのものに視線を釘付けにし、造形的な批評を通して鑑賞を展開したいと考えた。
さすが美術の先生たちである。作品を見つめる視点が映像と言葉によって分かりやすく伝わってくる。立体作品には、この鑑賞方法もアリだなと思った。
三澤 一実
サブファシリテータ感想
“みる”ということを徹底的に行えば、言葉はうまれてくる―。
三澤先生の言葉通り、全員で、グループで、ペアで、目で、身体で、手で“みて”、言葉にし、その言葉を確認し、共有し、考え、深めることを繰り返し、作品に迫った1日でした。
参加者の多くは、各自で多様な鑑賞教育を実践されている方が多かったことから、「言葉による鑑賞」そのものの意味や可能性についても活発な意見交換が行われました。グループ内に盲学校の先生がいらっしゃり、具体的な実践事例と意見を出してくださったことはグループワーク充実のポイントだったと思います。
デジタルカメラを使った鑑賞はこの研修では初めての試みでしたが、他の参加者の意見を聞きながら、言葉を積み重ねていく作業は、言葉では言い尽くせない作品のイメージを理解し、鑑賞を深めていくことでもあったのではないでしょうか。私にとっても鑑賞に対する考えを改めて捉え直す貴重な機会となりました。
亀井 愛
受講者感想(抜粋)
- 中学校教諭
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- 豊かで活発な意見交流があり、新しい発見ばかりだった。「対話型」の鑑賞教育がなぜ有効なのか、身をもって確認することができた。他のグループの活動内容についてもっと知りたい。
- 鑑賞に興味を示さない原因は何なのか?そこから鑑賞活動のあり方についてグループで討論した。そこから見えたのは、「だから対話をしながらものを見ることが大切なんだ=ギャラリートークの有効性」だった。今日これを実感できたことが大収穫だと思う。
- 彫刻の鑑賞の手立てを何種類も体験でき、それぞれの手法の利点がとてもよく理解できた。
- 私自身も生徒と同じように対話型の鑑賞を進めることで、言葉を紡ぐ楽しさや難しさを体験し、対話の意義を改めて考えさせられた。
- 対話型の鑑賞を実際に体験することで、一人では見えていないものが、対話の中で見えてくる過程を体験できた。彫刻の鑑賞で、触る、同じポーズを取る、映像にしてみる手法は、どれも授業の中に取り入れられそうで面白かった。
- 作品をしっかりと鑑賞する時間となった。また子どもたちにしっかりと鑑賞させるための手立てを、具体的にわかりやすく教えていただいた。
- 学芸員
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- デジカメで作品のおもしろさを紹介するプレゼンテーションづくりがとてもおもしろかった。自分がなぜそう感じるのか、言語化していくことでその他のいろんなことに気がつくことができた。