グループワーク 05

対話による作品鑑賞と小学生への学年別アプローチについて

Group 05
受講者:
9名(小学校教諭6名、学芸員2名、指導主事1名)
課題作品:
アルベール・グレーズ
[パリ1881年-アヴィニョン1953年]
《収穫物の脱穀》 1912年
油彩・カンヴァス 269.0 x 353.0 cm
国立西洋美術館蔵
ファシリテータ:
武内 厚子(東京都美術館 学芸員)
サブファシリテータ:
山水 明(埼玉県立近代美術館 教育・広報担当課長)

《収穫物の脱穀》


© ADAGP, Paris & SPDA, Tokyo, 2011
*著作権の関係上、一部の作品写真に画像処理をしています。

活動内容

01
形と言葉を合わせるゲームで自己紹介

自己紹介とウォーミングアップ(15分)

「元気」「ざんねん」「さびしい」「ドキドキ」などの言葉が書かれたカードと、さまざまな有機的なかたちに切り取った色紙を使って、言葉と形を組み合わせるゲームを行った。

自分の引いたカードに書かれた言葉にぴったりの形を一つ選び、なぜ自分はそれを選んだのかを話しながら自己紹介。

目で見て感じたことを言葉にするためのウォーミングアップとして。




02
対話による作品鑑賞体験

対話型鑑賞の体験(75分)

対話を通した作品鑑賞を実際に体験。
作品に近づいて細部を見たり、離れて全体を見てみたり、作品の中央から、左から、右からと位置を変えたりしながら、時間をかけてじっくり鑑賞。

また、描かれた世界に入っていくとしたら、どの登場人物とどんな話がしたいか、何を持って行くか、などを想像しながら鑑賞を行った。



小学校で鑑賞授業を行う意義について意見交換(30分)

参加者が普段学校で行っている鑑賞授業の方法や悩みについて意見交換。友達の作品を見て良いところ、工夫したところを見つけあうという鑑賞授業をはじめ、実際の制作の前に作家の作品をみて参考にする授業など現状の授業方法が出た。また、解説型の鑑賞と対話型の鑑賞との効果的な使い分けについても検討した。 図工以外の教科との関連性や、児童に対話型鑑賞授業を行うことの効果について話し合った。

03
学年ごとのアプローチと授業展開

発達段階ごとの鑑賞のアプローチを検討(60分)

3つのチームに分かれて、それぞれ低学年、中学年、高学年への対話型鑑賞を行うときのアプローチの方法と対話型鑑賞を用いた授業展開を検討し、それをもとにメンバー全員で話し合いをおこなった。



発表

対話型の鑑賞授業内容を、対象を低学年、中学年、高学年に分けて検討。

低学年
低学年は自由に作品の世界に入って、鑑賞を楽しむことを主眼に置く。
低学年なので手を動かす要素として、身近な写真をバラバラに切って再構成する制作などの提案もあった。
中学年
中学年は、細かいところへの観察を促すように、丁寧な問いかけを繰り返しながら鑑賞を行うことでじっくりと鑑賞する。作品について説明した手紙を書くなどの展開もできる。
高学年
高学年はやはり隅々までじっくり鑑賞できるような丁寧な問いかけによる鑑賞に加え、描かれた内容の情報を与えることで描かれた内容を社会的なものへとつなげていく提案があった。


ファシリテータ感想

今回、この作品でグループワークを行った理由は「何が描かれているのか私自身もわからない部分が多く、対話を通して様々な人の意見を聞いてみたいと思ったこと」、「時間をかけて見れば見るほどいろいろなものが見えてくる面白さのある作品であること」「この作品を写真や図版で見ても映らない細部に多くの情報があり、美術館で本物を見る醍醐味がある作品であること」。
参加者のなかには対話による鑑賞を初めて体験する人が多く、対話しながら鑑賞することの楽しさや可能性をご自身の体験を持って感じてくださったようです。対話をし、作品をじっくり観察し、いろいろな要素を発見し、それを分析して想像力をふくらませ、つなぎ合わせて言葉で表現するという、鑑賞の中で生じる一連の作業は、図工以外の教科でも必要な力を蓄えることにもつながっていくでしょう。参加者のみなさんは専科ではなくさまざまな教科を同時に受け持つ小学校の教員であるからこそ、他教科とのリンクについても様々に思いを巡らせて、より鑑賞の可能性を広げてくださる気がします。

武内 厚子

サブファシリテータ感想

この研修会には、以前、参加者として参加させていただきました。とても頭と体を使ってヘトヘトになったのを覚えています。でも、このヘトヘト感が今の自分を支えてくれていると実感することがしばしばあります。やっぱり、「わかる」と「できる」は違うということですね。今でも日々のファシリテートの後のヘトヘト感と、そこから感じることは私の宝です。さて、今回はサブファシリテータとしてお手伝いさせていただきました。ファシリテータの武内さんの進め方、ポイント、ポイントでのお話はとても私自身勉強になりました。また、参加者の皆さんが本気で鑑賞教育を考え、今回の研修から何かをつかみ取ろうと頑張っている姿に心打たれました。1枚の絵を対話をしながら鑑賞することで、なんとクリアにその絵が見えてくることか。この大切な点を参加者の皆さんと再確認させていただけた1日でした。みなさん、ありがとうございました。

山水 明


受講者感想(抜粋)

小学校教諭
  • 1枚の絵の前に4時間いて、考えられること、感じること、聞こえる音、においなど想像したのが良かった。
  • 具体的な視覚的分析の方法をいくつも教えていただいた。鑑賞の授業に対して、行き詰まっていたので新しいものが見えてきた気持ちがした。
  • グループワークを通して、対話型鑑賞の素晴らしさを実感することができた。また、どのように授業を展開していくか、先生方と一緒に考えることができ、大変有意義な時間となった。
  • 対話型の体験の中で、自分の作品の見え方が明らかに変化した感覚を味わうことができた。他の方の言葉や、見る場所で、初めての見え方から、「収穫」という題材だったり、キュビズムの見方だったり、色や線が鮮やかに見えて来たので、長い時間をかけて一つの作品を見ることの学習としての良さを感じた。
学芸員
  • 今回対話型鑑賞に初めて参加して、子どもたちはこういう感じで参加しているのだなと今までと別の視点で促えることができ、とても有意義だった。
指導主事
  • 美術館での鑑賞というのは、特に教師にとって敷居が高くなりがちだが、作品について知るというより感じることで、自分を見直すことができることを学んだ。