グループワーク 04

小学生を対象とした実践例の検討

Group 04
受講者:
10名(小学校教諭7名、学芸員2名、指導主事1名)
課題作品:
ニコラ・ド・ラルジリエール
[パリ1656年-パリ1746年]
《幼い貴族の肖像》 1714年頃
油彩・カンヴァス 65 x 53 cm
国立西洋美術館蔵
ファシリテータ:
齊藤 佳代(東京国立近代美術館工芸課 研究補佐員)
サブファシリテータ:
南 育子(墨田区立業平小学校 教諭)

《幼い貴族の肖像》


活動内容

午前





◆対話型鑑賞 [約30分]
各自でじっくりと作品をみたあと、全員で鑑賞。 「何が起きているか」「どんなことが気になるか」を中心に様々に意見を交わした。ある人が気づいたことや感じたことを、それを聞いた人が展開させたり、誰かの感想を受けてまた別の誰かが想像をふくらませたりなど、有機的な対話を通じて、描かれている情景や人物の観察から物語の推察や意味が形成されていったのが印象的だった。
◆作品のディスクリプション+ミニグループワーク [約40分]
グループによる鑑賞の後、もう一度個に戻って作品と向き合う。作品に描かれていることや気づいたこと、感じたことを付箋に書き出す形でディスクリプションを行った。
その後5人ずつの2つのグループに分かれ、共同作業でそれらの付箋を客観的事実と主観的感想に分類し、関連づけを行った後、グループごとに発表し全体で共有した。両グループとも描かれていることを人物、動物、背景(自然)に大きく分けて分析しつつも、一つのグループでは客観的データが多く、他方は主観的な項目が多いという差異や、分析による関係付けや物語の紡ぎ方に違いがみられ、各グループ個性が感じられるアプローチとなった。
◆自己紹介+ディスカッション[約35分]
午前中最後の時間を使い、自らの実践紹介を交じえた自己紹介を行った。すでに1時間以上共同作業で鑑賞を深めた後での自己紹介だったためか、鑑賞に対する各人の考え方に重点が置かれた密度の濃い内容で、その後のワークの布石となったように見受けられた。 皆の研修への期待を共有することからグループワークのゴールを設定し、午前のセッションを締めくくった。今回のゴールは、各自の現場での展開可能性を交換しながら、課題作品を用いた具体的な実践案を構築することとした。

午後



◆作品分析+実践案の構築+発表+ディスカッション[約90分]
午後は付箋の分類と分析を完成させ、作品のみどころを浮かび上がらせることで、これらが授業やプログラムを組み立てる上で重要な要素となることを確認することからグループワークを再開した。学校と美術館の連携を盛り込み、本作の鑑賞を中心に据えた授業案を2つのグループで構築 。途中2度ほど中間発表の時間を設け、それぞれのグループで出来上がったアイディアと、話し合いのプロセスとそこで見出された課題について話し合った。実践案を構築する過程でわずかながら膠着がみられたため、もう一度作品に戻る仕掛けとして、各自でタイトル付けてみたこともここに付記しておく。
◆グループ交流[約30分]
午後最後の30分はグループワークの締めくくりとして、メンバー交流の場とした。今後の実践や課題、学校と美術館の連携の可能性など、様々な話題に及んだ。作品に関する情報提供といった極めて具体的な課題について、あるいは鑑賞教育の先にあるものといった長期的ヴィジョンについて、といったように多面的で豊かなディスカッションとなった。

発表

課題作品の鑑賞を用いた授業であることと、美術館との連携を伴うことを前提条件として考えられた授業アイディア2種について代表者が発表。2案とも目標を「生涯を通じて美術に親しむ人間に育つ」ことに設定する共通点がみられたが、その先の展開はそれぞれのグループの独自性を発揮した内容となった。
一方は美術館を楽しむ、本物を鑑賞することに重点を置き、対話を介した鑑賞によって子ども達が自由に考えを伝え合う環境をいかに設定するか、その工夫について熱心に意見交換がなされ、授業案同様、議論においてもプロセスを重要視するアプローチがみられた。 もう一方のグループは、作品鑑賞における言語活動を通じて見方を深め、描かれているモノに対する具体的な認識を、表されているコトへと抽象化、内面化するような展開が考察された。物語をつくる、劇に仕立てる、絵画に表された場面を立体化する、レポーターになって紹介するなど多様な具体案を伴う実践案となった。
両グループとも、授業の中で美術館を訪れて本物をみるだけでなく、事前の相談や作品解釈の介添え、カリキュラム作成の協働など、様々なかたちでの美術館と学校との連携の可能性が検討された。


ファシリテータ感想

まずは参加者のお一人から受けた質問に答えることから始めよう。《幼い貴族の肖像》をグループワーク作品に選んだ理由は、人や動物が具象表現で描かれており、一見認識しやすく思える作品であると同時にじっくりみることでいろいろな疑問を抱かずにはおられない作品だからである。この作品を前にした他者との対話を介して、そこから生まれる多義的な鑑賞を通じて、簡単に「みた」つもりにすることなく、みたモノやコトについて考察することで「みる」と言う行為を意識的に取り出してみたかったからである。
自分だったらこの作品は選ばない、作品を紹介された時に残念な気持ちになったなど率直な感想も聞かれたが、一方で自分一人では通り過ぎてしまうかもしれない作品との関係が、他者と一緒に鑑賞することを通じて変化するダイナミズムを体験していただけたのではないだろうか。 「自分の見方や感じたことが話すこと、聞くことを通じて深まった。作品鑑賞は、一緒に見ている人を知ることのように感じた。」というある参加者の発言は、このたびのグループワークの成果を端的に表していると思う。

齊藤 佳代

サブファシリテータ感想

私は「第1回、美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修会」の受講生でした。各都道府県から集まった方と作品を一緒にみることの醍醐味を味わう3日間を経験しました。今回は、同じチームの仲間のまなざしと言葉を記録として残す役割をもちながらの参加です。
はじめて顔をあわせた12名のメンバーが作品にある事実から言葉をつむぎだし、他者の見方を自分の目で確かめ、新たな見方に気づくという出来事が繰り返されました。その後の沈黙の時間には、それぞれが個に戻り、絵の中に散らばっていたまなざしを関連づけ言葉とし表現していきました。言葉になった個々のまなざしは、大きな物語の断片のようでした。
「このグループワークはどのように着地するかわからない」とはじめにファシリテータは話しました。個々がみつけたことはお互いにみえない網目をうみだし、たまたま出会ったメンバーは生き物のような時間や関係を構成していきました。 個々の着地点からあらたな関係が生み出されていくことに期待が膨らみます。

南 育子





受講者感想(抜粋)

小学校教諭
  • 一つの作品と向き合い、グループのみんなで意見を交換する活動そのものがとても楽しく、充実した時間だった。一人では気づくことのできない、見過ごしてしまうような作品のおもしろさと出会い、美術館のおもしろさを体感できた。
  • 対象をじっくりと見られる環境が良かった。おちついた雰囲気の中で時間をかけて絵と対峙する時間そのものに価値があった。このような休館日や閉館後の美術館を、学校のために活用したら素晴らしい鑑賞学習ができると思った。
学芸員
  • 「視る」ことへの導きが大変ナチュラルだったように感じた。発表はもう少しじっくりと聞きたかった。
  • 友人たちと作品鑑賞する時とは心構えが違い、新鮮な感じだった。学校の先生の思いや考えを知ることができて良かった。
指導主事
  • ファシリテータのあり方に興味を持っていたが、ついつい作品に引き込まれ、鑑賞を楽しめた。自分自身の考え方、見方が時間をかけてじわりと変わっていくことにある種の感動を覚えた。