グループワーク 今井グループ

だれかと一緒に「自分八景」

今井グループ
課題作品:
ジュリアン・オピー
「日本八景」2007年 より
《国道五十二号線から南部橋をのぞむ》
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《国道三百号線からみる本栖湖の富士山》
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《国道百三十六号線から見る雨の松崎港》
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《真鶴半島の上の月》
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受講者:
10名(小学校教諭6名、学芸員3名、指導主事1名)
ファシリテーター:
今井陽子(東京国立近代美術館工芸館 主任研究員)
サブファシリテーター:
吉井有紀(東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館 教育普及担当)


活動内容


気になった作品を各自が選択


活発なトークが弾む作品との出会い


主題の普遍性をディスカッション

1.作品と出会う

課題作品は4画面構成。吉井さんとグループアシスタントの花井さんにも参加してもらい、1画面につき3名ずつ、気になった作品を選択。

2. ふたつの視点から

《日本八景》は作者が日本滞在中に撮影した写真を元に制作した映像作品。かならずどこかが動き、音も絶えない。そこでA3のシートを用意し、まずは実際に見たこと・聞いたこと、次に画中の任意の場所に入ってそこで見聞きするだろうこと、また天候、匂い、触覚、さらに「今の気分」などを書き出した。

3. 根拠を探る

想像の羽を広げて遊んだ領域も、当然、造形要素があってこそ。書き出した語句で関連する項目を線で結びつけ、また「だから好きなんだ」と思ったリンクに☆シールを貼った。

4. 共有

同じ作品を選んだ仲間で鑑賞体験を共有。「思った!」「どこ?」「ああ!」―共感や発見が連続し、作品とさらに親しんだ後はグループ替え。今度は違う画面を選んだメンバーと4人ひと組となり、それまでに見た作品を紹介して回った。

5. 自己紹介・情報提供

事前に用意してもらった参加者にとって「特別な場所」の写真とともに自己紹介。誰かの視点で切り取ったことで場が開かれ、やがて意味が生成するプロセスを確認。

6. ディスカッション

《日本八景》は媒体の新しさが目立つ一方、主題には普遍性がある。午後はまず、子どもたちと一緒に本作を楽しむポイントについてディスカッション。ここでベースとなったのが午前に蓄積した個々の鑑賞、そして共有の体験。子どもたちの反応の想定にリアリティがあり、また柔軟性も顕著となった。

7. プランニング・発表・評価

学校(チームT)・美術館(チームM)に分かれ、それぞれの立場から子どもと本作の出会わせ方や授業・プログラム案について、見せたい・伝えたいポイントを今一度整理しながら枠組を具体的に考えていった。発表の後は評価シートに「さすが!」と感じたところ、また自身の環境で採り入れたい点やアレンジできそうな点を記入した。


発表

チームTの授業案は、美術館での鑑賞に制作をプラス。作品の中の現象を言葉によって固着させること、また付箋によって生徒の個性の幅に適応することを提案。鑑賞の広がりは作品の天候やモチーフの変更など造形的アプローチへと展開した。他方、チームMのプログラムは鑑賞と追体験による。セルフガイドを用いた鑑賞の後、美術館内で子どもが気に行った場所を撮影。トリミングとトレースができる「ワク枠シート」で写真を加工し、子どもたちの作品を館内に掲示して無限大の連関性を持たせる「自分∞八景」をプログラム名とした。発表時にはもう一方のチームからのヨイショ(評価)も合わせて実施、所属による視点の違いや連携の可能性を検証した。

グループワーク講評

新しい表現、新しいメディア、しかも日本八景という古いフレームを使った魅力的な作品を前にして、制作と鑑賞を有機的につなぎながら、果敢にいろいろなことにトライされました。発表の形式も斬新で、実りが多かったと思います。

長田 謙一



ファシリテーター感想

今回のグループワークのために考えたテーマは「どこでもない;だれかの、どこか」でした。《日本八景》の見せかけの日常性、また細部の簡略による類型化に対して参加者がどのように関係を構築していくのかに注目していましたが、共有の第2段階、今やすっかり自身のテリトリーとなったそれぞれの画面をちょっと誇らしげに紹介しあう様子には、特殊な形式など物ともせず軽々と、そして真摯に本作品と、鑑賞教育と向き合っていく姿勢が窺われ、ファシリテーターである私のほうが励ましを得たような気がいたします。授業やプログラム案のキーワードがどちらのチームともに「自分八景」となったことも興味深い結果でした。私たちはいつも職業として鑑賞を意識しており、その距離感も大切ですが、他の人の反応の想定や看取の前提となるのはやはり私たち自身の感興ではないでしょうか。奇しくもプログラム案のキーワードに∞とあったように、喜びの連鎖が延々と広がっていく景色を期待しています。

今井陽子

サブファシリテーター感想

今回も全国の様々な立場から「鑑賞教育」と向き合っている方々を対象としたとても貴重な学びの場であることを再認識した2日間でした。昨年は受講者として参加し「鑑賞者」として作品の捉え方を学びました。今年は学校現場での「鑑賞教育」の現状・変化を知るとともに、受講者の皆さんと一緒に今井さんのファシリテートのもと、2つの立場(小学校・美術館)から考え進め、「音」「動き」のある作品を読み解き「子どもと一緒に楽しみたい・見せたい・伝えたいポイント」を絞り、美術館を十分に活用したプログラムを仕上げました。子どもたちの表情をイメージし、笑顔で意見交換している先生方の様子を拝見して、「鑑賞」の授業がより豊かな創造活動となるために美術館は何を求められているのか、何を提供できるのかを広い視野で考える必要性を感じました。「子ども」のために考えた時間を共有できたことに感謝します。みなさま、ありがとうございました。

吉井有紀


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

小学校教諭
  • 子どもたちの作品を見る視点や想像力の働かせ方についての方法など、ファシリテーターの方をはじめ、全国の先生方、学芸員、教育委員会関係者様々な立場の方から話を聞けてとても勉強になりました。また、実際の作品を目の前にしながら各グループの発表を聞くことで、鑑賞から学んだことを様々な表現方法で伝えられるということも、とても参考になりました。
  • まず個人として、じっくりと一つの作品を前に自分自身が鑑賞することができたことが貴重であった。教員としては、どんな風に子どもたちに見せたらいいのか、どんな声かけや見る視点が必要なのか等、身を持って体験し、学ぶことができ大変贅沢な時間を過ごすことができたように思う。
  • グルーピングの仕方や鑑賞の視点などが勉強になりました。取り上げられた作品が新しく、動きや音がすることが加わることで、感じ方が広がり、作品の世界にはいることができました。実際の授業で、そのまま取り入れるのは難しいと考えますが、新たな鑑賞の視点として、生かしていきたいと思います。
学芸員
  • 小学生向けの鑑賞プログラムの企画を作るというものでしたが、グループワーク全体が鑑賞プログラムになっていて、自分たちがそれに参加するという、事前に入念に準備された内容に驚きました。初めて出会う人同士が作品を通しながらコミュニケーションを図っていき、共同で作業を行うというグループワーク全体の流れも、今後の鑑賞プログラムを考えていくうえで参考になりました。
  • 選定作品がメディアアートで、はじめ「どのように鑑賞を進めるのだろう」と興味が高まった。3人のグループでの鑑賞では、オノマトペも用い作品を感じながらじっくりと見ることができた。それを踏まえて、2つのチームに分けて、学校側からと美術館側からとのプレゼンをお互いに見合うことで更に、対象作品の鑑賞についての理解が深まっていった。時間を大切にしながら、どう子どもたちに向かうかを意識しながらの研修だった。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

小学校教諭
  • 一つの作品から、どんな音が聞こえるか、どんなにおいがするか、他に何が見えてくるか、どんな感覚(温度、湿度など)になるか、どんな気持ちになるか、季節は、時間は・・・など、たくさんの発問を投げかけたり、ワークシートで想像を膨らませたりすることを、さっそく授業の鑑賞の時間に生かしたいです。
  • 授業の終末で、気に入った作品を選んで、いいところを紹介することをよく行うのですが、今回の研修でグルーピングの仕方が勉強になりました。自分の考えだけでなく、グループの話し合いででてきた事を他のメンバーに紹介する流れは、相手の話をよく聞くようにもなり、発達段階に合わせて取り入れていけると思いました。
  • 作品の鑑賞の一つの手順として、まず作品からわかったことから、というように、子どもたちにも、自然に作品の中に入れる工夫として、生かしていきたいです。
学芸員
  • まず、作品の魅力を鑑賞者の方に伝えるためには、まずは自分自身が魅力を感じ取ることが大切だと改めて思いました。自分だけでなく他者との話し合いの中で、魅力を感じ取ってもらうための手立ては色々な視点から考えることができることが分かりました。様々な視点を交えて作品を楽しむための活動を考えていきたいです。自己紹介と一緒に、自分が撮ってきた好きな風景について話すという活動は、知らない人同士でもお互いに一歩近づくような気持ちがしました。ワークショップの最初に、アイスブレイクに活用したいと思いました。
  • 当美術館の作品について、じっくり見せるための語りかけをどう行うか、それぞれが抱いた感想をどのように共有するかについての示唆をいただいた。来館者によって滞在時間が異なるので、時間もみながらトークを進めたい。また、いくつかの作品については、カードにしたりワークシートにしたりして、興味をもって鑑賞していただけるようにしたい。