グループワーク 寺島グループ

子どもの発達と鑑賞

寺島グループ
課題作品:
岡本太郎
《燃える人》 1955年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
《夜明け》 1948年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
受講者:
10名(小学校教諭6名、学芸員3名、指導主事1名)
ファシリテーター:
寺島洋子(国立西洋美術館 学芸課主任研究員)
サブファシリテーター:
松山沙樹(京都国立近代美術館 学芸課特定研究員)


活動内容

小学生と一言でいっても、1年生と6年生では大きな違いがある。6年の間に、子どもは精神や身体など様々な面で発達を遂げ、美術作品に向かう姿や思いもそれに応じて変化する。そこで、今回は岡本太郎の≪燃える人≫を題材にして、低学年、中学年、高学年に適した鑑賞を考えることをテーマにした。



低・中・高学年に適した鑑賞を考える

参加者の記憶に残る一番古い美術作品との出会いについて話しながら自己紹介を行った。その後、小学生の鑑賞で大切なもの・大切にしたいことについて話し合う。鑑賞それ自体の意義、美術館だけでなく友達の作品や身近な複製画(カレンダーなど)の鑑賞の共通点や相違点、子どもへの対応(声掛け、雰囲気作り)など、多様な視点からの意見が出たことで鑑賞の可能性が広がっていく様子がうかがえた。



鑑賞の可能性をひろげる議論

岡本太郎の≪燃える人≫には、多くのイメージが激しい色彩とともに具象、あるいは抽象化されて表現されている。今回のワークにこの作品を選んだ理由は、饒舌とも言える本作品の要素が、多様な鑑賞の方法を考えるのに適していると思ったからである。そこで、まず全員で本作品をじっくり観察し、多くの要素を発見した。次に、作品の世界を五感で表現するゲームを行い、見えたもの、聞こえる音、ただよう匂い、触れた感触、なめた時の味を想像して文字にした。最後に、それらを総括して絵の物語を考えた。



異なる内容のプログラムを提案

午後は、≪燃える人≫を見たとき子どもが発すると思われる言葉や行動を想像して付箋に書きだし、それらを「鑑賞学習と発達の関連表」の9つのキーワードに落とし込んで、子どもの発達と鑑賞の関連性を確認した。そして、低学年、中学年、高学年の3つのグループに分かれて、キーワードと付箋の言葉を参考にしながら各学年の発達段階に適した鑑賞プログラムを作成した。何もないところからプログラムを考えるのではなく、キーワードというひとつの視点があることで、各学年それぞれに異なる内容のプログラムが提案された。


発表

低学年グループ:身体性・発見・直観を重視する。「絵から見つけて、はいポーズ!」と題し、作品の要素から選んだモノを真似してポーズをとり、それを当てるゲーム性のあるプログラム。 中学年グループ:絵に表された物語を重視する。子どもが発見したモノや子どもの思いから物語を想像し、それを仮面劇にしたてて発表するプログラム。 高学年グループ:造形要素と論理性を重視する。作品から発見した要素を取りだし、どうしてそのような表現になったのかを考えるプログラムで、作者の意図にも思いを巡らすことができるようにする。 子どもの発達段階を意識することで、鑑賞のアプローチの多様性や、キーワードが鑑賞作品を選ぶときの観点にもなることが確認された。

グループワーク講評

なかなか重いテーマを前にして、まずは参加者のみなさんが直感的に感じたことをひとつひとつ丁寧に拾い集め、それを子どもたちの発達段階に対応させることにより、システマティックに鑑賞教育のタイプを構想したグループでした。先に教師の側に何かがあるというよりは、教師自身の感覚をベースにしながら、子どもたちの身体性、物語性、論理性まで繋げていきました。短い時間に筋の通った内容にまでよく展開されました。

長田 謙一



ファシリテーター感想

久しぶりにグループワークのファシリテーターを担当しました。これまで、様々な視点で参加者と一緒に鑑賞や美術館の機能などについて考える活動をしてきましたが、今年は、学習指導要領という基本に立ち返って鑑賞プログラムを具体的に考えることにしました。参加者の皆さんは、教員、あるいは学芸員としての経験に幅があり、すでに鑑賞活動をされている方、またこれから始めようとする方が混在していたことが、一緒に作業をするうえでお互いの刺激になったのではないかと思います。ワークに選んだ≪燃える人≫は、ビキニ環礁での水爆実験をテーマにした重い作品ですが、発達段階に応じて学習指導要領から選びだしたキーワードに沿って鑑賞を考えることで、テーマに捉われない3つのプログラムが提案されました。いずれのプログラムも子どもの発達に即した活動や工夫があって、さすがだなと思いました。始まりは常に子どもにあり、そこから作品や活動内容が決まるのだ、という基本を参加者の皆さんと一緒に確認する時間を過ごせたことに感謝します。

寺島洋子

サブファシリテーター感想

寺島グループでは、岡本太郎《燃える人》を取り上げ、発達段階に応じた3つの鑑賞プログラムを考えました。想定される子どもの発言や反応を「鑑賞学習と発達の関連表」の各項目に落とし込む作業により、明確なねらいを持った活動を考えることができたように感じました。《燃える人》は水爆実験と関わりがある作品です。しかしその事実を伝えずとも、形や色から受ける印象を身体的に表現したり、発見したことを繋ぎながらストーリーを考えたりすることで豊かな鑑賞が行えるということが、全体で共有されました。また、作品の背景知識を提示した上で、「作者の表現はその出来事を私たちに伝えるのに適切かどうか」と問いかけることも有効、という寺島さんのアドバイスに、私自身、視野が広がる思いがしました。今回、活動記録を取りながら、経験豊かな皆さんの発言やアイデアから多くを学ばせていただきました。今後の実践に活かしていきたいです。

松山沙樹


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

小学校教諭
  • 「鑑賞学習と発達の関連表」を参考にしながら、小学校低・中・高学年3グループに分かれての授業づくりが、これからの実践に大変役に立つものであった。子どもたちの育てたい力を明確に、目標を持って指導計画を立てることの重要性を学ぶことができた。寺島先生の知的で穏やかな語り、全て受け入れてくださる雰囲気に包まれて、集中力を持続できるすばらしい内容であった。
  • 初対面の方々にも関わらず、一つの絵についてじっくり一緒に話すことができ、よかったです。自己紹介、対話型鑑賞の方法を新たに知ることができました。絵の中に入り込んで、音・においなどの五感を働かせて感じたことをカードに書き、そのカードをグループ内で回して完成させるのは面白い鑑賞の仕方だと思いました。授業案を考えたのも、良い経験になりました。
  • 言葉や理論だけでは無く、実践できたのが一番良かった。特に、作品の中に入り五感で感じ取った物を違う人と組み合わせて詩をつくる活動は、共同的な学び(創造的な活動)に非常に濃く繋がると感じました。
学芸員
  • 作品を目の前にしたとき、どのように質問を投げかけたらいいかということを(業務の中で)悩んでいました。作品を見てすぐに何か(を問いかける)というより、むしろその場にいる方々の雰囲気づくりが最初だと感じました。一緒に鑑賞している、作品と共にその場・時間を共有しているという感覚を忘れずに過ごすことが基本だと思いました。(グループ・ワークでは)グループの方々と、自然に、楽しみながら作品に引き込まれていったようでした。感想を述べあったり、作業的なことをしたりと、終わりの時間が来た時には「楽しかった」の一言です。意表を突いた考えを知ったときは、自分の脳神経のシナプスがピピッとつながった気がして、面白かったです。
指導主事
  • 発達段階に応じてプログラムを話し合うことができ、より具体的な支援方法について研修することができました。また、教師が自ら鑑賞のプログラムを体験できる機会が少ないこと、全国での実践状況について話し合うことは大変貴重であり、勉強になりました。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

小学校教諭
  • グループワークで作った鑑賞プログラムは、現場ですぐに実践できそうだと思いました。作品の選び方や事実の伝え方など、今までは自己流でやっていたことを理由つきで教えていただけたことが今後の実践に役立つと思います。なかでも、発達段階に合わせた鑑賞のキーワードは大変勉強になったので、今後の実践で生かしていきたいです。
  • 自分のクラスで対話型鑑賞を今後も続けて実践したいと思いました。特にグループワークで体験した、絵の中に入って五感を使うという鑑賞の仕方をしてみたいと思います。このような授業を校内に公開したり、研修の場もうけたりすることで、対話型鑑賞というもの理解を広め深めたいと思います。
  • 感じたことを言語化することだけが鑑賞のやり方ではなく、語彙力の乏しい低学年には身体表現などのアクティビティ化した鑑賞授業をたくさん考えて、実践していきたいと思いました。
学芸員
  • 美術館職員としての立場から、①当館職員に研修として紹介する。②当館ボランティアの「団体ガイド」の際の研修として行う。学校等団体対応の際に児童生徒への鑑賞方法として役立てる。③学校連携の普及事業として、学校の教員を集めて研修を行う。教員から各学校で実際に試してもらい、広める。まずは、この3つを実行したいと思います。
指導主事
  • 先生方に実践内容を伝える機会をつくっていきたいと考えました。また、美術館で行われる教員向けの鑑賞研修を広く情報発信し、鑑賞の授業に対する共通理解を深めていきたいと思います。