グループワーク 松永グループ
中学生の鑑賞に適した題材(作品)について考える
- 課題作品:
- ピエール=オーギュスト・ルノワール
《木かげ》 1880年頃
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マルセル・デュシャン
《自転車の車輪》1913年(1964年 シュヴァルツ版 ed. 6/8)
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《瓶乾燥器》 1914年(1964年 シュヴァルツ版 ed. 6/8)
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《泉》1917年(1964年 シュヴァルツ版 ed. 6/8)
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《帽子掛け》191年7(1964年 シュヴァルツ版 ed. 6/8)
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- 受講者:
- 11名(中学校教諭7名、学芸員3名、指導主事1名)
- ファシリテーター:
- 松永かおり(東京都町田市立金井小学校 副校長)
- サブファシリテーター:
- 吉澤菜摘(国立新美術館 学芸課アソシエイトフェロー)
活動内容
今年は、グループワークを企画展示室にて行う幸運に恵まれました。中学校の授業では、「生徒にどのような作品で鑑賞の授業を行うか。」ということが、「授業のねらい」に直結することになります。今回の企画展である、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」は、多種多様な作品の展示がされているので、美術館を活用して授業を行うと考えたときに、どのように鑑賞する作品を選ぶかということを体験していただくことが可能となりました。
グループワーク内容
- 自己紹介の後、「Lエリア/ルノワール《木かげ》」で、ギャラリートークを行う。ここでは、指導者としての立場を忘れ、一鑑賞者として、作品の見方や感じ方を大切にする体験を行う。
- 「Oエリア/デュシャン《泉》など」で、ギャラリートークを行う。ここでは、中学生だったらどのような反応をするか、何を大切にしながら、ギャラリートークを行うか、対話による鑑賞の有効性などについて確認。
- 企画展エリアを全員で見る。サブファシリテーターから、展覧会の趣旨説明を行い、ファシリテーターから小グループでの活動について説明。
- 小グループ活動を行う。
主体的な鑑賞を促すための手立て、子どもが自分なりの見方や感じ方を体験するための手立て、新しい価値観や意味を自分の中に作り出す鑑賞活動、 作品や作者の情報をどのように与えるかを考えながら、授業で鑑賞する作品を1点選ぶ。 - グループごとに話し合ったことを発表、振り返り。
発表
ルノワール《木かげ》で、ギャラリートークをした後、デュシャン《泉》などで、ギャラリートークを行いました。印象派の後に、抽象的な作品を鑑賞することで、鑑賞者としての感じ方の違いや、中学生だったらどのような反応をするかなどを具体的に考えることができました。
その後、企画展示室全体を使って、3グループに分かれて、授業で鑑賞する作品を1点選びました。各グループでは、主体的な鑑賞を促すための手立て、子どもが自分なりの見方や感じ方を体験するための手立て、新しい価値観や意味を自分の中に作り出す鑑賞活動、作品や作者の情報をどのように与えるかを考えながら活動を行い、作品を選定するために大切にすべきことをじっくり考えました。
グループワーク講評
「鑑賞の旅」という言葉がよかったです。鑑賞は子どもにとってハードルが高い印象があるので、旅へいざなうことが大事です。先生と生徒の応答が、扇形のコミュニケーションでなく、子どもたちをつないでいく形がよかったです。作品を選定するのは、授業のねらいと同義でとても大事です。選定には関係者で情報交換するとよいでしょう。
東良 雅人
ファシリテーター感想
企画展示室を自由に歩き回り、作品を選定するとういう贅沢な環境で、受講者のみなさんも積極的に意見を交換され、実践的な体験をしていただくことができました。美術館を活用した鑑賞には様々な目的や形態が考えられますが、授業として行う場合には、「何を鑑賞するのか」「なぜ、その作品でなければならないのか」ということを考えることが大切です。また、このことは、通常の授業で鑑賞の授業を行う際にも欠かせない視点ですので、今回の体験を、これからの授業に役立てていただけたら幸いです。サブファシリテーターの吉澤さんには、作品に関する情報提供を、受講者のみなさんのニーズに応じて適切に対応できるよう周到にご準備いただきました。そのような学芸員さんのお姿をみなさんに御覧いただけたのも、GW内での大切な体験であったかと思います。本当にありがとうございました。皆様の今後のご活躍を心からお祈りいたします。
松永かおり
サブファシリテーター感想
企画展エリア全体を使った‘贅沢な’グループワークは、中学生の鑑賞に適した作品を選ぶことを主題に進められました。松永先生の丁寧なファシリテーションのもと、受講生は中学生の視点を意識しながら、授業のねらいを定め、ねらいに到達するための手立てを検討していきました。漠然と作品を選ぶのではなく、目的の設定と作品選択を結びつけて行うことで、より具体的かつ高精度の鑑賞プログラムの提案につながっていたと思います。また、学校側のねらいを理解していれば、美術館側も作品選択に関する助言や提供する情報をより充実させられると感じました。グループワーク発表での受講生の表情からは、彼ら自身も確かな手応えを感じていることが伝わってきました。受講生の顔にこれからの「指導者」としての自覚を見出し、活動の成果を実感するとともに、国立美術館のコレクションに囲まれてグループワークを経験できるという喜びを噛みしめる一日となりました。
吉澤菜摘
受講者感想(抜粋)
グループワークのご意見・ご感想
- 中学校教諭
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- 松永グループでは全体で1つの課題に取り組むのではなく、グループをさらに3つの小グループにして、それぞれが同じ課題に取り組む形式だったので、結果として一つの課題に対しての色々なアプローチを共有できてよかったです。また、本物の作品を目の前にしながら、授業の構想をグループで考えられる時間が贅沢でした。
- 初めに松永先生がファシリテーターとして対話による鑑賞を実演していただき授業でのイメージがもてました。先生と生徒の扇型の関係ではなく、生徒と生徒をつなぐファシリテーションが大変参考になりました。
- 様々な地域から参加されている先生や学芸員の方々を同じ方向を向いて一つの作品にじっくりと向き合う貴重な体験をさせていただき、有意義な時間でした。
- 学芸員
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- 企画展全体を使用させていただき、大変贅沢な時間でした。松永グループでは、課題作品の選出もグループで行えたため、どういった作品についてどのようなねらいを定めるのがよいかについて先生方と一緒に討論することができ、大変勉強になりました。対象となる作品が多く、またそれぞれタイプの異なる作品であったので、幅広い対話の事例を学ぶことができました。また、トークにおいて、松永先生と吉澤先生が、効果的に役割分担をされていたことが非常に印象的で、学校と連携する上で大事なことを教えられたと感じました。
- 良い雰囲気の中で進めていただいたので、いろいろな意見を交わすことができ、とても参考になりました。ファシリテーターである松永先生の、ねらいにせまるグループワークの進め方は、学ぶものがたくさんありました。
- 指導主事
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- 協議の中から、新しい視点が見つかり、とても有意義な時間となりました。
- 「鑑賞の対象となる作品を決める=鑑賞活動のねらいを定める」ということが、グループワークを進める中で納得できました。初対面の方とすんなり対話が深まり、漠然と頭の中にあったもののピントが合っていく感覚は楽しいものでした。時間が許せば、他の方の選んだ作品についてももっと話し合いを深めたかったです。
グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか
- 中学校教諭
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- 浜松市で行われる、中学校教育研究会(美術科)の中でも、実際に美術館を使用し、松永グループで行われた内容を実施したいと考えました。また、普段の授業でも表現の為の鑑賞ではなく、感性や情操を揺さぶるための鑑賞授業を取り入れていきます。
- 鑑賞の研修会等で実施したいと思いました。作品の選定はねらいと同義であるということを伝え、生徒の予想される反応からどのような手立てで、どんな発問にするかなど考える機会をもたせたいです。
- 作品に対する見方や感じ方は個によって多様ではあることを、鑑賞の授業を通して生徒に伝えていきたいです。また、作品選択をする上で、「何を学ばせたいか」という、明確なねらいをもって授業構成をしていかなければならないということは、美術・図工に限らず、どの教科にも通じることであると思います。
- 学芸員
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- 普及業務であるギャラリートークに生かしていきたいと思います。また、教師向けの研修内容等にも組み込んで、普段の指導に生かせるようしたいと考えています。
- グループワークの中でしばしば指摘された、美術館で鑑賞教育を行うことを考慮した作品配置を取り入れていきたいと考えます。また、抽象作品についても、学習の中で取り上げていただけるように、先生方を対象に作品の歴史的な背景や内容について十分に説明する機会をつくることができればと思います。
- 指導主事
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- ギャラリートークについて、全県に紹介し、研修等で、話題にしたいと思います。
- 先生方への研修を行う際に、このようなグループワークを取り入れて、先生方にまず対話による鑑賞の楽しさを感じてもらいたいという思いがますます強くなりました。また、自分自身が授業者、ファシリテーターとなる際には、対話を組み立て深めていくための準備を充分に行うとともに、柔軟に対応できる力を日頃から蓄えておきたいものです。