グループワーク 亀井グループ

みること、かんがえること、つながること―さまざまな鑑賞体験を通して中学生の鑑賞を模索する

亀井グループ
課題作品:
竹内栖鳳《飼われたる猿と兎》1908年
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アラヤー・ラートチャムルーンスック
《ミレーの「落ち穂拾い」とタイの農民たち》 2008年
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竹内栖鳳《草相撲》1937年
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吉岡堅二《馬》1939年
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藤田嗣治《猫》1940年
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藤田嗣治《動物宴》1949-60年
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靉光《素描図巻》1938-39年
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靉光《ライオン(シシ)》1936年
靉光《眼のある風景》1938年
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淀井敏夫《聖マントヒヒ》1966年
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佐藤(朝山)玄々《動》1929年
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受講者:
10名(中学校教諭6 名、学芸員3名、指導主事1名)
ファシリテーター:
亀井愛(三井記念館美術館 教育普及員)
サブファシリテーター:
関聖美(国立国際美術館 学芸課研究補佐員)


活動内容


課題や悩みを全員で共有


作品からキーワードを見つける


キーワードをイラストで描く

1.自己紹介・悩みの共有

自由に展示を鑑賞した後、展示室の作品をつかっての自己紹介。その後、普段の活動で悩んでいること、課題に感じていることを簡潔に付箋に書き出し、模造紙を使って、全員でグルーピング、共有した。授業づくりや美術館との関わり、日本美術の鑑賞などがキーワードとしてあげられた。

2. [みる]

・《キーワードで"みる"》 キーワードビンゴ
1人で展示室の作品全てを鑑賞し、オリジナルビンゴシートに作品からみつけたキーワードをイラストで描く。その後、参加者同士で交換し、交換したシートをもとにあらためて作品を鑑賞。ビンゴがでたら、どの作品でみつけたか発表。その際、シートを交換した人(作成した人)にも話を聞き、各作品でどんなキーワードが出たのか共有。自分の視点、他者の視点を確認し、異なる作品でも同じキーワードがあることを共有した。

・《"みる"ことを考える》 ギャラリートーク
関さんのファシリテートのもと、1階企画展のアラヤー・ラートチャムルーンスック《ミレーの「落ち穂拾い」とタイの農民たち》を全員で鑑賞。初めてみる異文化の作品を前にして先入観にとらわれない純粋な視点で鑑賞を楽しむ人々をとらえた映像作品を通じて、「みる」ことについて改めて考えた。一方、中学生が自分たちの住む国(日本)の文化の作品に出会った時、どんな「みかた」ができるのか・・・。次のワークへつなげた。

・《じっくり"みる"》 作品をみる
竹内栖鳳《飼われたる猿と兎》を中学生の気持ちになって鑑賞。気付いたことを付箋に書いて、模造紙に貼っていった。 付箋には、描かれているものの数を問うものから、描かれている動物がどんな気持ちなのかを考えるものまで、様々な言葉が書き出された。付箋の言葉を分類、整理しながら、作品を鑑賞するうえでのキーワードを全員で検討した。

3. [しる]

《飼われたる猿と兎》に関連して岩絵具や、膠といった日本美術特有の画材や屏風という形式、竹内栖鳳について、参加者にも発言していただき理解を深めた。そしてこの展示室の作品は全て日本人によって作られていること、動物がとりあげられていることを伝え、日本美術としての共通点を示した。

4. [かんがえる]

いままでのワークをふまえ、3つのグループに分かれて、中学生を対象としたプログラムの展開について話しあい模造紙にまとめた。 その際、《飼われたる猿と兎》を必ず使うこと、他の作品を少なくとも1つ併用することを条件とした。いくつかの展開が考えられたが、視点やねらいをどこに置くかが話題となった。


自分の視点、他者の視点を確認

5. [つながる]

各グループでどんな話し合いが行われたのか全員で共有し、グループワーク全体の振り返りを行った。


発表

作品をくみあわせて鑑賞することで子どものなかにうまれる新しい価値観

まずグループ全体から選出された1人の司会者が、ワークの流れを説明したあと、各グループの代表者がそれぞれ検討したプログラム案について発表した。各グループからは、「対比」という視点から日本らしさとは何かを考える、どんな場所に飾りたいか「部屋」という視点から作品単体への鑑賞を深める、作者の動物への「まなざし」から日本の美術文化への関心を高める、などの案が出た。 そのなかで共通していたのは、日本美術の造形的な特徴を中学生がどうとらえ、自分なりの価値観をもち、それを他の生徒と共有し、どう表現するかだった。子どもと作品との出会いを大切に考えながら、中学生の鑑賞活動について模索したことを、発表者は思いを込めて伝えてくださった。

グループワーク講評

美術館の得意なところを生かしていました。日本と西洋の比較など2点以上くみあわせるのもよかったです。幅広い伝統性を中核に置くのが大事であるし、現代の視点も大事であり、生活の中に美術として生かしています。そして子どもが自分を歴史的地理的な存在と認識させることが大事です。それが継承と発展につながるのではないでしょうか。

東良 雅人



ファシリテーター感想

グループでは美術館の空間を使って中学生がどんなふうに鑑賞を楽しめるのか?日本美術の作品と他の作品をくみあわせて鑑賞することで子どものなかにうまれるもの(新しい価値観)とは何なのか・・・。竹内栖鳳の作品を出発点に1人で、少人数で、全員で“みて”、“言葉”にし、その言葉を共有してかんがえ、つなげることを繰り返し、作品に迫った1日でした。作品をあえて1つに限定しなかったのは、受講者の多くが現場での豊かな実践経験をお持ちだったため、鑑賞活動の幅をより広げてほしいと思ったからです。屏風に関する情報(知識)を発言してくださった学芸員の方がいたこともグループワーク充実のポイントだったと思います。みなさんの意識が高く、時間が大変短く感じました。 グループの皆様、一緒にファシリテーターを務めてくださった関さん、本当にありがとうございました。

亀井愛

サブファシリテーター感想

私たち大人はこれからを生きる中学生に鑑賞を通じてどんなことを学んでほしいのでしょうか。今回のグループワークでは、とくに、学習のねらい、美術館と学校の連携、日本美術への理解を深める方法、について皆さんが日ごろ試行錯誤をされている様子が伺えました。課題はあるものの、中学生の視点に立って多角的に考えてみると、いま中学生にとって必要な学習のねらいとは何なのか、そのために鑑賞させたい作品はどれなのか(作品のどんなところなのか)、どんなふうに鑑賞するのか、という要点が見えてきました。また、地域も環境も異なるメンバーで出し合った様々な知恵や工夫は、その組合せ次第で何通りもの鑑賞教育の方法が生まれる可能性を示していたように思います。それぞれに戻られた現場で何らかの足がかりとなることを祈っています。皆さんと亀井さんの熱意を感じ、私自身も今後の教育普及活動に尽力したいと感じた1日でした。ありがとうございました!

関聖美


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

中学校教諭
  • 美術館に展示されている本物の作品を利用した自己紹介から始まり、自分が感じたテーマをイラストで描くビンゴゲーム、そして、同展示場所の他の作品を関連づけた『飼われたる猿と兎』の鑑賞プログラムの考案・発表会まで、頭をフル回転させて参加することができました。同じグループの中にも、様々な意見があり、それを共有することで新しいアイディアが生まれる、という体験を通して、授業の中でも、生徒たちに同じような有意義な体験をさせたいと思いました。普段は学校で一人で考えることを、同じ目的を持った先生方、学芸員の方、指導主事の方と一緒に考える経験は、とても貴重な体験になりました。
  • 「授業として使えるかどうか」という意識で参加していたので、最初は戸惑いもありましたが、自分自身も生徒の気持ちになって活動ができて結果よかったです。個人的には選定された作品をもとに授業を構成する活動が特に有意義でした。また、共同で作業することで新しい視点が多くあったので刺激的でした。作品選定も自分では選ばないような作品でしたが、そういった作品を改めてじっくりと見ると多くの発見があり、自分の枠を広げるいい機会になりました。ただ、はじめからグループで考えると場合によって思考が停止しがちなので、個人で考えた後にグループですり合わせる、という流れでもよかったかと思います。
  • 私のグループでは、鑑賞教育の経験が豊富な先生方が多く、複数の作品を取り入れたギャラリートークを考えるというワークを行いました。1つの作品との対話型よりも、トーク全体の工夫や関連性など、これまでとは違った視点でトークの組み立てをした所が大変勉強になりました。
学芸員
  • 名品の数々を題材とすることで、リアルな体験が出来たと思う。またファシリテーターの方にうまく案内して頂いて、グループのメンバーとコミュニケーションをとることが出来ました。学校の教員の方々が、鑑賞教育についてどのように考えているかについて生の声を聴けるいい機会でもありました。また他のグループの発表を通じて、様々な作品との付き合い方、紹介の仕方があることを知ることが出来ました。特に戦争画や現代美術をあえて課題となったグループの発表は刺激的でした。
  • 美術館への学校来館時のプログラムを考えていく上で、先生方の感想や考え方を聞けたということが、とても参考になりました。また、書きだされた美術館と教員の方々の悩みについて知ることができたことも良かったと感じています。連携を図りたいと考えつつもできなかった部分が、プログラムを一緒に考える課題に取り組むことによって、先生方のプログラムへの取組方を知るきっかけとなりました。 亀井グループが、午前中の終わりにみた海外の人々がミレーの落穂拾いの作品を鑑賞し会話している映像作品なども、初めて目にする作品を鑑賞するときの状況を考える参考になりました。美術館で行うプログラム・研修だからこそ最大限に活用した研修が組み立てられているのだと感じました。また、グループごとにアプローチの仕方も異なり、他の参加者とそのことについて情報交換できたこともよかったと思います。
  • 普段出前授業で鑑賞体験を行う場合、先生方とお話しして内容を決めるということが無かったので、初めての経験でした。あらかじめ双方の「ねらい」を明確にしてプログラム作りをすることによって、より充実した鑑賞体験ができると実感しました。学芸員によって違うかもしれませんが、今まで「鑑賞体験」によって必ず作品の歴史や作者の情報等を学ぶ必要はないのではと考えていましたが、学校の先生方は「中学校3年生のレベルなら今歴史の授業でここまでやっているから、こういうことなら理解できる」といった明確な学習を鑑賞体験において自然と求めていたように感じ、そのギャップに驚きました。
指導主事
  • 事前に送付した個別の資料を基にグループを設定していただき、個々の体験を基にして課題に取り組み、理解を深めることができました。小グループでは、美術館の学芸員、現場の教師と異なった立場からの視点で鑑賞活動プログラムを作成することで、実践する際の連携のポイントをつかむことができました。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

中学校教諭
  • まず、熊本市の図工・美術部会での研修に生かせるのではないかと思います。今回のグループワークでやったことを、同じ地域の美術科の教師同士で行うことで、美術館を活用した鑑賞教育の広がりにもつながると思いますし、新たな鑑賞の授業の考案にもつながるのではないかと思います。また、日々の授業では、ねらいを明確にし、生徒一人一人にとって、授業が「新しい自分に出会える場」「他者とつながる場」となるような活動を工夫していきたいと思います。美術館との連携について、なんらかの形で今年度1回行い、来年度につなげていきたいと考えています。
  • 教材研究の視点をたくさん与えていただけたと思います。またグループで活動すればこそ、アイデアが膨らむことを再認識しました。一校に美術の先生は一人、ということは当たり前で、「独りよがり」にならないためにも、支部研修などの機会に、情報の共有、意見交換の場を積極的に設定していきたいです。
  • まずは題材となる作品選びが大事だということを痛感したので、地元の作品リストの確認をする必要あると思いました。また、近隣の中学校の美術教師との連携を模索してみたいと思います。
学芸員
  • 今までは出前授業として鑑賞体験を行ってきましたが、来年度からは美術館で鑑賞体験を行うように体制が整えられつつあります。そのような中で「美術館だからこそできる鑑賞体験」をより実感できるようなプログラム作りをしていけたらと思います。 またそのプログラムを作る際も先生方の「ねらい」を事前に把握したうえで、より充実したものにしていきたいなと思います。
  • 「先生方と話をする場」の大切さを感じました。幸い、当館では教員研修の場として積極的に取り組んでいるので、そういった機会を利用して話し合いの時間を設けることも可能ではないかと考えております。 亀井グループで行ったグループワーク自体が一つの学校向けプログラムとして実践できると思うので、発達にあわせてねらいなど構成を考え、プログラムの一つに取り入れたいと考えています。
指導主事
  • 次年度の県として図工・美術の指導の方針を立てる際、県教委主催の実践研究における公開授業の授業づくりや授業研究会、県内の研究会等における指導助言などの機会を利用して、授業における鑑賞活動の充実や美術館との連携の推進について、資料提供や助言をしていきたいと考えました。