グループワーク 小野グループ

美術館とつくり、つながる鑑賞

小野グループ
課題作品:
川端龍子
《草炎》 1930年
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受講者:
10名(小学校教諭6名、学芸員3名、指導主事1名)
ファシリテーター:
小野範子(茅ヶ崎市立緑ヶ丘小学校 教頭)
サブファシリテーター:
木村拓也(大田区立龍子記念館 学芸員)


活動内容


カルタ大会をしながら自己紹介

1.アートカードを活用した自己紹介

アートカードは東京国立近代美術館のカードを中心に33枚用意した。3枚ずつ伏せて配付。そのうちの1枚について読み札を考え、カードを全て表にしてテーブルに戻す。ファシリテーターが読み札を読み、カルタ大会をしながら自己紹介。



想像力を膨らませて対話による鑑賞を行う

2.作品に描かれている草をスケッチし、植物図鑑で詳細を調べる

今回グーループワークで扱う川端龍子作《草炎》は、庭園の雑草が描かれた作品である。 その画面の10種類の草を選び、くじ引きによりそれぞれの草をスケッチした。スケッチする中で、興味をもったことについて、植物図鑑でその詳細を調査。 その後グループに分かれ、気付いたことについて情報を共有した。部分に注目することで作品全体への興味を引き出したところで午前中のグループワークを終えた。


3.見全体を全員で見て知識を入れながら、対話による鑑賞

午前中の振り返りとして、単眼鏡を使い細部を見た後、全体を全員で見た。午前中に部分的に鑑賞した際の興味・関心を展開させ、黒い背景は群青色のアズライトという石を焼いた色であることや、草に使われている金には様々な金色があることなど、サブファシリテーターの木村さんから、知識としての見る視点を入れていただきながら、対話による鑑賞をした。月明かりに照らされた荘厳な世界や、右から左に向かって草の勢いがだんだんなくなっていることから、春夏秋冬のイメージや人間の一生が描かれているのではないかなど想像力を膨らませて共有した。



子どもと作品を出会わせるワーク

4.発達の段階を意識して、子どもと作品を結びつける

発達の段階を意識して、3つのグループに分かれて、作品と出会わせるためのワークを考えた。自分が子どもになって、実践し、タイトルを発表した。


5.もっと知りたいに応える

サブファシリテーターの木村さんに作品の背景をお話していただいた。視覚的なイメー ジを膨らませる屏風の成り立ち、写経などにも用いられる紺紙金泥という神聖な世界の表現で、あえて雑草を描くという川端龍子の反骨精神、手前に濃い金を使うといった空間全体の遊びなど、質疑や感想に応えていただき、作品をより深めることができた。


発表

アートカートを活用した自己紹介、草のスケッチをして細部をよく見た後、午後から全体を対話による鑑賞により深め、グループに分かれて発達の段階でどのように作品と出会わせるか実践した。 低学年グループは、生活科のつながりの中で校庭や家の草を観察することから、草の気持ち、草になりきり、草の形や勢いのある生え方に興味をもたせるダンス「雑草大サーカス」を考えた。 中学年グループは、蟻から見た作品の中の世界ということで、作品の中に入り、地面から昇っていくことで、よく見ることと草の触感を味わうことを主題におき、「僕の登っている草は何?アリさんクイズ」を考えた。 高学年グループは、対話による鑑賞により全員で想像した作品のイメージから人と草の一生をダブらせた物語として考え、輪廻転生の世界観を「焼群青の庭」という題名に込めた。

グループワーク講評

身体表現、虫の視線の体得、円環を描いて60年後に続いていく物語、とこの短い時間で良く発表してくださいました。このグループは屏風を前にして、どんどん見方が深まっていく時間を過ごされたようです。「焼き群青」という言葉が一言出てくる背景に、「この黒い色は何なのか」という疑問をみんなで掘り下げていって、それが鉱石を焼いた深みのある色なんだということにグループ全体で発見して行ったプロセスが良くわかりました。この日本独特の色彩の在り方も、小学生自身が発見すれば、子どもたちなりに絵の深みとして理解するだろうということも伝わりました。

長田 謙一



ファシリテーター感想

打合せに行った川端龍子記念館は、東京都大田区の閑静な住宅地にあります。記念館の学芸員であり、サブファシリテーターの木村さんから、作品、アトリエやお庭を案内していただきました。その日は、雨上がりだったため、龍の背中を模した石畳が潤い、《草炎》に描かれいるのと同じ草たちが、瑞々しく輝いて見えました。そんな贅沢な時間を過ごした後、その足は自然と東近美に向かいました。改めて《草炎》を見ると、フラッシュがたかれた荘厳な中に自分だけが存在しているような感覚と、一つ一つの草が愛おしくなる不思議な気持ちに包まれました。あの日以来、今まで気にとめなかった草が気になり、美しさに目を奪われます。当日は、グループの方々も、見れば見るほどすっかり《草炎》に引き込まれていくのが分かりました。今回のワークを一緒につくってくださった木村さん、見ることを心から楽しんでくださったグループの皆さんに感謝いたします。

小野範子

サブファシリテーター感想

サブファシリテーターとして研修に参加させていただき、教員と学芸員が連携していく意義をより強く実感しました。小野先生のグループの試みは、川端龍子《草炎》の「部分」に着目し、参加者との対話を繰り返すことで作品「全体」への興味を引き出していくアプローチでした。当初、私が意識していたことは、作品と参加者をつなげる学芸員の役割でした。小野先生が意図されたのは、作品を通して人と人とをつなぎ、参加者「ひとり」ではなく「みんな」で共感して作品を鑑賞することでした。学芸員が画家の制作意図や技法、時代背景などを小出しにつつ、教員は作品をもっと知りたいという参加者の欲求を高めることで、鑑賞方法そのものを一変させる協同作業になりました。私は、今回の貴重な体験をもとに学芸員と教員が連携した新たな鑑賞教育に取り組んでいきたいと思います。ファシリテーターの小野先生、そして参加者の皆様に厚く御礼申し上げます。

木村拓也


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

小学校教諭
  • 1枚の絵を深く鑑賞していく課程を体験することができました。全体の印象、細部の模写、全体の構図や色、着色方法、なぜこの題材を描いたのか、などグループで追求していくうちにどんどん作品と作者に引き込まれていく自分がいて、大変貴重な体験でした。小学校の発達段階に合わせた具体的な迫り方を考え、発表出来たこともよかったです。また、他のグループの発表を聞くことで、また違った鑑賞方法や美術館の学芸員さんが考える鑑賞手法なども知ることができました。
  • じっくり鑑賞したことのなかった日本画の屏風が課題でしたが、見つめれば見つめるほど、「なんで?」「どうなっているんだろう!?」がたくさん自分の中に出てきて、みんなでそれをああだこうだ言ってどんどん核心に迫っていく瞬間のぐわっとくる感じがたまらなかったです。作品への愛が溢れ、発表も全員で、そして全力で取り組めたのがよかったです。
学芸員
  • 参加者を主体的にさせる小野先生の視点と、サブファシリテーターの木村さんのタイムリーな解説で、ひとつの作品でここまで掘り下げられるのかという鑑賞体験ができました。発達段階を考慮した発表形式もよかったです。
指導主事
  • 1枚の絵をじっくりと見たり、それについて話し合ったりする経験が初めてだったので、非常に新鮮で勉強になりました。スケッチをしたり、グループの他の先生方の話を聞いたりすることで自分も新しい発見があり、さらにファシリテーターやサブファシリテーターの先生方が用意してくださった資料を見たり、絵が描かれた背景を聞いたりすることで、絵に対する興味や愛着が深まりました。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

小学校教諭
  • 自分の学級で、今回経験したような1枚の絵を前にしての話し合いを、ぜひ実践してみたいと思います。今までは子どもの言葉を豊かにする言語活動を仕組むため、国語科や算数科での取り組みを続けてきましたが、このグループワークで、図画工作科でもできることが分かりました。みんなが絵を見て感じることを素直に話し合う経験を、子どもたちにもぜひさせたいと思います。
  • グループワークがこんなにも実り多く楽しい経験となったのも、ファシリテーターの小野先生や、サブファシリテーターの木村さん、スタッフの皆さんが綿密な準備をしていただいていたからこその時間だったと思います。そういった意味で、自分が鑑賞教育を行う際にも、対象学年にあわせた絵の選定や鑑賞方法を充分に考え、ねらいに向けての準備をしっかりとして、鑑賞の楽しさを子どもたちに味わわせたいと思います。美術館との連携やワークシート作成についても積極的に取り組みたいと思います。
  • 自分の近隣の美術館の学芸員さんと連携を図り、鑑賞活動を行うことや、小野先生がしたような、子どもたちも同じようにものの見方や感じ方が深まるギャラリートークを展開したい。また、子ども同士の対話を大切にする指導を意識し、鑑賞活動の自分の指導スキルを上げたいです。
学芸員
  • 鑑賞者を主体的に活動させる鑑賞の在り方、トーカーの関わり方、主体的な鑑賞内容の発話のさせ方など取り入れたいと思います。
  • 子どもたちに話し合ってもらうということは、あまりやったことがありませんでしたが、今回のグループワークで興味がわきました。とくに美術にあまり関心がない子どもに、興味をもってもらうための、ヒントを得られたように思います。
指導主事
  • 鑑賞活動の価値や楽しさを広げていきたいと思いました。また、鑑賞によって深まった見方考え方の表し方は文字言語だけでなく、身体でも表せるし同じ文字言語でもさまざまあり、固定化しないようにしていきたいと思います。