グループワーク 濱脇グループ
中学生とピカソ、いろんなピカソとどう近付ける?
- 課題作品:
- ピカソ
《ラ・ガループの海水浴場》 1955年
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- 受講者:
- 10名(中学校教諭6 名、学芸員3名、指導主事1名)
- ファシリテーター:
- 濱脇みどり(西東京市立青嵐中学校 教諭)
- サブファシリテーター:
- 江藤祐子(三菱一号館美術館 教育普及担当)
活動内容
1.まずはVIPルームで自己紹介、そしてピカソの「この一枚!」で交流
展示作品のある4階には皇居を見下ろすように「眺めの良い部屋」がある。ここでプロフィールを見ながら自己紹介。今年も昨年度に勝るとも劣らない多様なバックボーンをお持ちの参加者たちだ。ファシリテーター・サブファシリテーター含めてお互いの立場や知識、見方・考え方などを交流し、そこから沢山のお土産を作って帰りましょう。
このグループには事前に、グループワークの対象がピカソであること、各自がピカソの作品の中から1点を選んで紙ベースで持参することをお伝えした。全国数々の美術館にピカソ作品は所蔵され、しかもその内容はさまざまだ。一方中学校の教科書には必ずゲルニカが掲載され、3年間で一度もピカソに触れることなく美術の授業を終えることはまずない。研修を通して、そんなピカソと中学生を豊かに出会わせるヒントが創り出せたら、と考えた。持ち寄られた画像は少年期から晩年までまさに十人十色で、それぞれが選んだ理由を話し合うことから、多様なピカソについてこれから行うワークの下地が出来上がった。
2.作品とスペシャル資料をもとに、ピカソに近づく
展示室に移動し、作品と対面する。一人で静かに見て、気づいたことを述べ合うことから始める。一人ずつ、二人組で、それを交流して、対話型を進める。さて、みんなで深めた鑑賞内容の裏付けとなる資料は、今回はかなり特別だ。なぜならこの作品、制作の過程が記録され、映画として残っているから。そのDVDの一部を視聴し、制作過程の実際とともに、制作過程を公けにしておこうとしたピカソの意図やそこから見えてくる彼の制作姿勢などについて、みんなで情報を共有した。
3.中学生とピカソを近づけるには?
午後は3グループに分かれ、本作品を使ってピカソと中学生を近づける鑑賞活動を考える。その際、ファシ手製ピカソ年表と学習指導要領鑑賞部分、参考となるピカソの言葉を資料として配布。連携についての課題などお悩み相談は、話し合いの中で適宜解決していく方向だ。中間発表をはさみ、実物をチラ見、凝視しつつ、あっという間に2時間半が過ぎた。
視聴したDVD
『ミステリアスピカソ 天才の秘密』
1956年制作 フランス映画 監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
発表
Aグループは1、2年でピカソの他作品に親しんだ上で、3年生で本作品を鑑賞。4人でレプリカを見て話し合う。浮かんだ疑問点などを各自調べ、発表し合うことから「ピカソ、なんかわかった(生きざまと多様な表し方など)!」にもっていきたい。Bグループは「完成ってどういうこと?」というテーマで、本作の他、映画に残された画像を4・5枚見せることと、生徒たち自身の制作過程で起きる葛藤を振り返らせることを合わせて、試行錯誤を繰り返したピカソの制作態度について考えさせる。Cグループは造形的なよさとピカソの制作過程を関連付けて味わわせることをねらいとし、学校では実物大コピーを用いた部分の模写(表現活動)を取り入れ、その後美術館で実物と出会わせる。豊かな作品と午前中の講演やワークに導かれ、3つのかなり異なる方向性のプランが考え出された。
グループワーク講評
ピカソのように有名な作品はVTRなどを提供することで、同じ作品でも新しい視点が生まれると思いました。3年間を見据えた鑑賞活動ができるのが良かったです。
東良 雅人
ファシリテーター感想
対象作品選定の時は単なる直観だと自分では思っていたのですが、5年ほど前に買い求めたDVDの中に本作が納められていたことを無意識が知っていたのかもしれません。こんな経験はなかなかできるものではなく、私にとってもスペシャルな研修となりました。晩年のピカソ作品、中学生からまさに「俺でも描ける」と言われそうなパッと見の本作ですが、10人の目で深めると、DVDその他の資料で明らかになっている事柄がほとんど指摘されていきました。また活動プランを考える過程で、参加者によって異なる問題意識や大切にしたいことなどが際立っていき、またそれらをより合わせて一つのプランに練り上げていく作業が、まさに問題解決型、と呼べるものでした。ベテランの参加者からはこのようなグループワークの進行に対する肯定的な感想もいただき、励みになりました。10年目を迎え、お一人おひとりの目的意識が明確になっている、すごい!と感じた一日でした。
濱脇みどり
サブファシリテーター感想
この研修の季節にぴったりなピカソの作品《ラ・ガループの海水浴場》を題材に、3つのグループに分かれて行われた、中学生の鑑賞活動のプラン作成。濱脇先生がご持参くださったDVDの視聴では、同作品を一見しただけではわからない、ピカソの制作過程が明らかになり、感嘆の声があがりました。濱脇先生ご準備のピカソの年表などの資料も参照しながら、鑑賞に際して、作品や作家に関する情報や資料をどう有効に活用するかが検討されました。
どのグループでも、大変積極的な話し合いが行われ、地域やご所属によって異なる状況を踏まえつつ、それぞれに創造性に富んだ興味深い活動プランが出来上がりました。このグループワークで得た実践的な内容を生かして、それぞれのご所属先で、皆さまこれから益々ご活躍されることと思います。私にとっても大変勉強になりました。濱脇先生、そしてグループメンバーの皆さま、ありがとうございました。お疲れ様でした!
江藤祐子
受講者感想(抜粋)
グループワークのご意見・ご感想
- 中学校教諭
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- 濱脇グループではピカソ「ラ・ガループの海水浴場」という1枚の絵についてじっくりと鑑賞する事が出来ました。鑑賞方法を手順として覚えて行っても実際に鑑賞活動をする人の発問に対する戸惑いなどを予想が及ばないことがあります。今回のようにファシリテーターのもと鑑賞者として作品に向き合うことで、鑑賞者の思考の流れやファシリテーターの発問や声掛けなど安心して作品の中に入り込める場の設定を体感することが出来ました。また、今回は濱脇先生がお持ちのピカソの記録映画を知り大変参考になりました。(鑑賞者に伝えなくとも)ファシリテーター側として持っている知識を深めていくようなアンテナを張っていたいと思います。
- 先生方が持ち寄った絵や、グループ鑑賞を行った「ラ・ガループの海水浴場」の記録を拝見し、ピカソという画家が、作品に自分を投影する生き様のようなものが伝わりました。また、ひとつの作品から3通りの授業展開を各グループで考えることができ、鑑賞授業のまとめ方(終末)など、日頃頭を悩ませていたことに、たくさんのヒントを頂ける貴重な研修となりました。
- 事前にファシリテーターの濱脇さんよりピカソについて通知があり、事前準備により当日のグループの方々の思いをすぐに掴み取ることができました。濱脇さんの今までの自己研究がつながった時の感動を聞き、その思いが私の心に届きました。自己研修の大切さを痛感しました。でしゃばりすぎず、確かな助言がありがたかったです。濱脇さんの私たちに対する関わり方は、今後の私の鑑賞教育に大いに役立ちました。
- 学芸員
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- 学校の先生と「授業」をつくるというグループワークが、美術館での教育普及プログラムをつくる観点と違っているところが多々あり、勉強になりました。
- 先生方の鑑賞教育の実践経験を踏まえつつ、具体的な授業を構想できたのがとても勉強になりました。
- 指導主事
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- 鑑賞作品の選択がとてもよく、グループワークも充実したものとなりました。誰でも認識のある画家でありながら、作品を実際に鑑賞することで新たな発見が多く、鑑賞はどの作品でも成り立つとは思いますが、今回の趣旨の鑑賞にとても有効であり、濱脇さん感謝です。さらに学校現場における鑑賞をどのようにするべきかが明確となったグループワークでありました。
グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか
- 中学校教諭
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- まず、自分の鑑賞の授業改善を図りたいです。1時間のなかでの授業展開、題材の内容、取り上げる鑑賞作品の選定、年間指導計画の中にどのように鑑賞の授業を位置付けるかを見直し、実践したいと思います。また、少人数の美術部から美術館での活動を進めていきたいです。学校事情にもよりますが、可能な限り美術館へ生徒を連れて行ったり、出前授業できてもらったりして自分ができることから美術館との連携を図りたいです。
- これまで行ってきたトーク鑑賞(グループ鑑賞)の中で、鑑賞のテーマや視点を設定して取り組みたいと思います。子どもにどのような力をつけさせたいのか、価値を見出すことができる生徒像についてもう少し具体的に課題設定を行い、子どもたちが将来的にも進んで鑑賞活動に参加できる環境を整えていきたいと思います。
- ピカソの作品から各自がお気に入りの一つ選んで選んだ理由を伝え合う活動、対話型鑑賞、グループで授業内容を限られた時間で考えて発表し合う活動等、どれも研修会や授業、部活動等で実践できる内容でした。グループごとに話し合われた授業内容や他のグループの発表で伺った内容も含めて今後に生かしていきたいと思っています。ファシリテーターの役割、対話の流れ、参加者としての思いなど体験したからこその気付きも生かして行っていきたいです。
- 自分の中で、対話による鑑賞の新たな展開方法が見いだせたように思うので、2学期以降の授業準備に生かしていこうと思います。また、同僚の中から希望を募って対話型鑑賞を行って、有効性を感じてもらいたいと思います。
- 学芸員
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- 図工・美術の教職員の集まりに参加し、研修の内容を深めたいです。
- さまざまな授業のやりかた、鑑賞教育の方法があることを学んだので、美術館でも応用できると考え、実際のギャラリートークやワークショップなどで実践してみたいと思っています。
- 指導主事
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- 可能な限り美術館と学校が連携し本物を味わうことが大切であると感じました。連携には多くの課題がありますが、できることは多々あると思われます。これまで教科書等の作品を鑑賞する中で、教師側が子どもに情報を提供しすぎてきたように思われます。子どもたちが主体となって考え、感じたことを教師はその言葉をつなぎながら必要な情報と手立てを考えていくいこと。今回、活用されたDVD等、より鑑賞に深めるための手段は有効と思いました。先生方には鑑賞授業へのチャレンジを更に推進して参りたいと思います。