グループワーク 弘中グループ

子どもたちが作品を見る時にわたしたちに何ができるだろう?を考える

弘中グループ
課題作品:
パウル・クレー
《山への衝動》 1939年
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受講者:
10名(小学校教諭6名、学芸員4名)
ファシリテーター:
弘中智子(板橋区立美術館 学芸員)
サブファシリテーター:
本間美里(東京都港区立御成門小学校 教諭)


活動内容


自己紹介で言葉の重みを確認

1.グループワークの目的確認と自己紹介

自己紹介では、参加者自身の小学校時代のあだ名と図工の授業の思い出を話しました。教師の一言で傷ついた体験をお話する方もあり、教師や指導者が子どもたちにかける言葉の大切さを確認しました。


2.美術館とは?

「美術館の活用」について、子どもたちが参加できるプログラムが用意されていること、学芸員は美術作品や作家の情報を持っていることなどを紹介しました。

3.現在行っている鑑賞

学校、美術館で子どもたちに作品をどのように見せているのか、実践紹介をしました。美術館での対話型鑑賞、美術館と教員が連携してワークシートを作成、オノマトペカードを使った鑑賞、美術館が貸出ししているアートカードを使った鑑賞、学芸員を招いての授業などがありました。



想像力をひろげる鑑賞の試み

4.パウル・クレー《山への衝動》をみる

1人で、そして2人で作品をそれぞれ1分ずつ鑑賞しました。複数で見ると、気がつかなかったところを教えあい、作品について想像も含めて話が広がっていきます。


5.子どもたちと《山への衝動》をみることを考える

2人1組で選んだ「もまたん」の性格を表情から想像し、優等生タイプ、ひねくれているけれど図工は好き、などの設定をします。その子がクレーの《山への衝動》を見たらどんな反応、発言をするかを想像しました。「分からない」と言うだろうと想像された子どもには、まず部分から観察させる、次々に発言する子どもには、少人数に分けて他の子どもの意見も聞ける環境を作る、気持ちや音を想像するなどのアプローチを考えました。

6.鑑賞が深まる言葉掛けは?

作品を見る時に使える言葉を書き出しました。「何があるかな?」「時間は?」「何をしている?」といった問いかけと、それを深める「どこからそう思うの?」といった問いかけ、「よく見つけたね」などの発言を受ける言葉も出ました。

7.学校と美術館でできること

体験を通じて、学校と美術館で連携してできることを考えました。学校側からは、作品や作家についての情報、鑑賞のポイントを教えて欲しいなどの要望がありました。美術館と学校の普段からの連携、相談出来る環境作りも大切なようです。。

8.「鑑賞とは◯◯だ!」

最後に1日のグループワークを通じて鑑賞とは何かを改めて考え、一人一人が書き出しました。。



鑑賞とは何かを考えてメモ

参加者が書き出したメモ

発表

1日の流れをグループワーク中に私たちが書き出した言葉を貼った3枚の模造紙を見せながらお話しました。学校・美術館で参加者が実践してきた鑑賞については、ギャラリートーク、アートカードなどグループ分けできるものもありました。子どもの姿、絵を見た時の反応を想像したものを書き出した模造紙は議論が深まったこともあり、たくさんの書き込みがあります。ギャラリートークで使える言葉は、導入部、同意、子どもの感想を深めるものなど、いくつかに種類分けをしました。発表の最後には、参加者が考えた「鑑賞とは◯◯だ!」を発表しました。

グループワーク講評

パウル・クレーの作品を手掛かりにしながら、鑑賞とは何か、美術館と学校とは何か、ということを、子どもを軸にしながら繋いでいったというこのグループの成果が良くわかりました。クレーの絵そのものについても、実際にはグループワークでたくさん話されていたのですが、報告ではあえてその中身を前景に出すことをしなかった。この絵自体がそういう性格を持っているのかもしれません。豊かな内容を持っているにもかかわらず寡黙である。たぶんこの絵の特徴が、この絵を中心にいろんなものが繋がったという報告にさせたのだと思います。あらためてクレー作品の特質を考えさせられる発表でした。

長田 謙一



ファシリテーター感想

アートカード、出張事業などを積極的に取り組んできた参加者が多い一方で、作品をどのように子どもたちに見せるのか、という根本的な悩みも見られました。子どもたちが潜在的に持っている見る力をどのように発揮させるのかを考えるため「もまたん」のカードを使いました。受け持ちのクラスにいる子どもを思い浮かべる先生もいたようです。子どもたちがどんな反応をするのか、子どもたちの自然な姿を大切に、鑑賞の助けとなる言葉を考えました。 グループワークのまとめとして「鑑賞とは◯◯だ!」を考えました。そこには「出会い」という言葉が多くありました。作品との出会い、鑑賞の時間を共にした仲間との出会い、鑑賞を通じて見えてきた自分の姿との出会いです。子どもたちと作品の出会いをもっとすてきなものにするために、指導者である教師、学芸員は連携し、豊かな環境づくりをしていく必要があると再認識しました。

弘中智子

サブファシリテーター感想

グループで様々な活動に取り組みながら、終始「鑑賞ってなんだろう」と考えた充実した時間だったと思います。初めて出会った人が、いろいろな立場や経験から、意見を出し合ったり、相談したり、絵を鑑賞したりしながら、鑑賞について考えていくことは、とても刺激的で素敵なことです。そして、とても特異なことだと思います。なぜなら、全国から集まって、美術館という空間で対話をしながら鑑賞について深めていくことができる貴重な場であるからです。また同時に、鑑賞について考えることをとおして、今までの自分の取り組みを振り返ったり、子どものことを思い返したりすることにも繋がり、自分や子ども、自分と関わる他者を見つめ直すきっかけにもなったと思います。明日から使えることもあるでしょうし、これから考えていかなければならないことも生まれたことと思います。この研修で学んだことが、また他の誰かと共有することで、更に大きく深く広がっていくことを願っています。

本間美里


受講者感想(抜粋)

グループワークのご意見・ご感想

小学校教諭
  • グループワークの中で、様々な子どもたちとの関わりを想起しながら、鑑賞をシュミレーションすることができた。細かな声かけや、子どもたちとのやりとりを学芸員や先生方と考えることで、様々な角度から鑑賞を考えられた。
  • パウル・クレーの作品をあんなにじっくりと見る機会は今後ないかもしれません。作品を通して、この絵の前に立った子どもの目線になって、どのように感じるだろうか、そして私たちはどのような声掛けが有効だろうかと語り合ったことが印象に残っています。また、代表でグループ発表をさせていただいたことも、貴重な経験になりました。
  • ギャラリートークの進め方がとてもよく分かり、楽しかったとともに工夫を加えながら実践していきたいと思いました。また、鑑賞活動の実践例や「もし○○な子どもがいたらどんな声かけをするか」という現場に立ち返り、話し合えたことはとてもよかったです。さらに、各グループの発表からも学ぶことが多くありました。
学芸員
  • 今回のグループワークでは鑑賞を体験しながら鑑賞教育について話し合いました。その中で鑑賞者の感情や正確を予測しながら、進め方や声掛けを考えるものがとても勉強になりました。当館ではVTSを使った鑑賞を行っておりますが、VTSの方法を行っているだけではなく実際に鑑賞者はどのように考えているのか、鑑賞者の発達段階ではどんな方法で声掛けをするのかなど、改めて知る事が出来ました。
  • 私が所属したグループでは、それぞれ学校、美術館、教育委員会と立場の異なる参加者がおり、今までの実践や今後の活動の展開と違った視点で意見が出された。こういった場で、ざっくばらんに話しをすることは今後、美術館と学校が連携を継続、推進していく上で非常に大切であると感じた。他のグループの活動内容はよく見えてこなかったが、あらかじめグループでの活動を選択できる手段があると有り難い。
  • 私の参加したグループでは、教諭と学芸員がペアを組み、対象の作品を鑑賞して感想を言い合ったり、小学生になりきって質問を考えたりしましたが、普段の仕事の影響が入っての視点の違いや、学校が美術館に具体的に求めている事などが分かって良かったです。 最初に小学生の頃のあだ名と図工体験を発表しながら自己紹介をして、小学生の頃の気持ちを少し思い出してグループワークに入っていけました。ファシリテーター、サブファシリテーターをはじめスタッフの皆様が多忙の中で、工夫したプログラムを準備していただいた事に感謝いたします。 発表ではグループ毎にグループワークの内容がそれぞれ違っていて、「鑑賞教育」の奥深さに素直に感心し、他のグループにも参加してみたいと思いました。発表の方法もそれぞれ個性的で楽しめました。
指導主事
  • 和気あいあいとした雰囲気で、楽しく活動ができました。時間が短く感じられ、一日があっという間でした。できたら、美術館の他の作品もじっくり見たかったです。

グループワークの経験を、現場でどのように生かしたいと考えますか

小学校教諭
  • 絵を鑑賞するときの人数や絵までの距離など様々な観点で鑑賞することで新たな発見が生まれることを子どもたちにも気づかせたいと思いました。
  • グループワークを通して、今の自分に欠けていることや足りなかった部分がわかったので、改善していきながら鑑賞教育を進めていきたいです。また今回、ファシリテーターの弘中さんの学芸員ならではの見解に触れることもできたので、今後は地元の学芸員さんともタイアップして先生方への鑑賞教育の研修も活発にしていけたらと思います。
  • クラスの子どもたちに作品を見せながら、よく見て伝え合うというギャラリートークを実践してみたいです。また、現職教育などで他の教員や職員のみなさんとも行いたいです。また、作品を見て感じたことを体で表現するということ、ワークシートの工夫など今後子どもたちの実態に合わせて実践していきたいと思いました。
学芸員
  • 学校の先生方からは、美術館に行く時間的な制約や交通費の問題が利用のネックになっているという意見が多く出されたので、教育委員会としてすべきことはこの双方の抱える問題点をクリアにして少しずつ解決していくことだと思います。特に図工・美術を専門教科としない教員に対して、鑑賞教育を理解してもらう手立てを講じていきたいと思いました。
  • 「作品について小学生にどんな質問をするか」という課題の中で、サブファシリテーターから、「どうしてそう思った?」ではなく、「どこからそう思った?」と質問した方が良いとの指摘があり、勉強になりました。また、自分の小学校時代の図工体験の発表で、当時の先生からの何気ない一言で傷付いたという体験が私を含め、思いのほか多い事に驚いたので、解説方法などの技術的な事だけではなく、言葉にも気を付けたいと考えました。
指導主事
  • 作品のいろいろな見方や子どもに対する言葉かけの仕方など、参考になりました。話しかける人を1人、2人、4人と増やしていく方法は、今度ギャラリートークで使ってみたいと思いました。また、ダンスで表現するのも面白かったので、使ってみたいです。