1970年代にエレクトロニクスを利用したパフォーマンスで注目され、80年代半ばより「音」と「かたち」を結びつけたサウンド・オブジェを手がける藤本由紀夫(1950-)による、《EARS WITH CHAIR(on the wall)》。椅子に座って筒に耳をつけると、空気の振動が加わることで周囲の音が変化し、同時に風景の見え方が劇的に変化するという体験型の作品です。「オープンな場所に設置されているので、通りすがりの人が音を聞き、驚きながら楽しんでいる様子もよく見かけます」と牧野学芸員は話します。
同館では、2023年9月30日より、令和5年度国立美術館巡回展「20世紀美術の冒険者たち—名作でたどる日本と西洋のアート」が開催されます(会期は11月19日まで)。 東京国立近代美術館所蔵の作品を軸とする構成に高松市美術館と熊本県立美術館の収蔵作品が加わり、本展でしか見られない美術館3館のコレクション展が実現します。入口で《EARS WITH CHAIR(on the wall)》を体験し、視覚のみではなく聴覚も含む感覚を研ぎ澄まして同展を楽しんでみてはいかがでしょうか。
【牧野学芸員による、推しポイント】
現代美術を専門とし、とくに音と結びついた表現に関心があるという牧野学芸員。個人的な推しも含めて、藤本由紀夫作品の特性を聞きました。 「藤本由紀夫は、身近にある日用品などのオブジェを組み合わせ、視覚や聴覚など知覚の変容を促す作品を制作しています。オブジェには最小限しか手を加えず、その手際は鮮やかでエレガント。その作品やインスタレーションには小さな驚きがそこかしこに潜みます。 鏡面ステンレス製のゴミ箱のシーソーのように触れる蓋の上に、ねじを巻いたオルゴールを載せる。オルゴールは音を奏でながらゴミ箱に落下していく——落下後も音はしばらく鳴り続ける——《MUSIC DUST BOX》という作品が個人的にも好きなのですが、オブジェへの作家の関与は最小限でありながら(あるいは最小限であるがゆえに)知覚の変容が最大限に引き出される点で、《EARS WITH CHAIR》も同様に、藤本さんの作品の特質がよく表れている一点だといえます」
1973年、京都市生まれ。1995年より高松市美術館で学芸員として勤務。専門領域は近現代美術。これまでの担当企画展・イベントに「森村泰昌モリエンナーレ・まねぶ美術史」(2010)、「高松コンテンポラリーアート・アニュアル」(vol03/2013、vol04/2014、vol.06/2017、vol11/2022)、『村山知義の宇宙』(2012)、「坂本龍一―Playing the Piano Tribute to Shinro Ohtake」(2013)、「ヤノベケンジ シネマタイズ」(2016)、『起点としての80年代』(2018)、「三輪眞弘による高松市美術館開館30周年祝賀演奏会」(2018)、「中野裕介 / パラモデル展」(2021)など。