DEAI調査レポート7

「ミュージアム・アクセシビリティマップ」の開発と実践-対話から始めるアクセシビリティの意義を伝える

「ミュージアム・アクセシビリティマップ」の開発と実践-対話から始めるアクセシビリティの意義を伝える

「DEAI調査レポート」シリーズでは、ミュージアム*のアクセシビリティに関する調査研究の内容をシリーズで紹介しています。「DEAI」とは、Diversity(多様性), Equity(公平性), Accessibility(アクセシビリティ), Inclusion(包摂性)の4つの文字の頭文字をつなげたアクロニム(略語)です。国立アートリサーチセンター(以下、NCAR)では、国際的にも重視されているDEAIの理念についてリサーチするとともに、各館の実情に応じてアクセシビリティを進めていくための具体的な方法や要件に関する調査研究を設立当初より行なってきました。

2025年度は、ミュージアムで働く職員や関係者を対象とした研修プログラムと研修内で使う教材ツールの開発を行ないました。研修を通して、現場における「実践知」を可視化し、日本のミュージアムのアクセシビリティの現状を把握することを目的にしました。

本記事では、編集者・ライターの林亜華音氏が主に教材ツール「ミュージアム・アクセシビリティマップ」の編集とデザインを担当した立場から、その開発と実践の一連のプロセスを紹介します。

 

 *本記事ならびにNCARの事業において対象としている「ミュージアム」とは、美術館だけでなく、考古・歴史・民俗・文学などの人文科学系博物館、自然史・理工学などの自然科学系博物館や、水族館、動植物園のほか、資料館や記念館なども包括的に含みます。

開発の背景|義務化を契機に、問われるアクセシビリティ

近年の法改正により「合理的配慮(註1)」の提供が全事業者に完全義務化され、また国際博物館会議(ICOM)におけるミュージアムの定義(註2)が変更されたことを背景に、すべてのミュージアムにおいてアクセシビリティの見直しと向上が急務となりました。しかし「義務」として取り組むだけでは実効性は生まれません。ミュージアムに関わる一人ひとりがその意義を理解することが、本質的な実践に不可欠です。
そこでNCARでは2023年度に『ミュージアムの事例(ケース)から知る!学ぶ!合理的配慮のハンドブック』を刊行、翌年度に「合理的配慮」と「情報保障」を軸として動画を通じて学ぶことができるeラーニング「ミュージアム・アクセシビリティ講座 ふかふかTV」を制作し、全国から約1,500名が受講しました。2025年度はここから発展し、eラーニングと対面ワークショップを組み合わせた二段階の研修「ミュージアム運営のためのアクセシビリティ研修」を企画。個々人の学びから組織全体の対応へとつなげることを目指しました。

薄い水色の背景に7色のもくもくとした小さな雲のような形が重なり合ったシンボルマークの右側に、白い文字で「文化庁委託事業 令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業 ミュージアム運営のためのアクセシビリティ研修」と書かれ、その下に国立アートリサーチセンターのロゴ。

開発プロセス|心理的障壁から問いを始める

館全体でアクセシビリティの取り組みが着実に推進されるために、研修内で「eラーニング」による学びに加えて「対面ワークショップ」を通じた議論を深める機会の必要性があることを受け、プログラム内容や構成について現状の課題を整理しながら検討するところから始めました。

体制と前提|ミュージアムのアクセシビリティの現在地

プログラムと教材ツールの開発にあたり、ミュージアムにおけるアクセシビリティやインクルーシブ事業について知見のある有識者を含むメンバーによる研究会「DEAIリサーチラボ2025」を組織。各館の環境や状況の違いを考慮しながら組織全体の意識をどのように高め、実践へとつなげるかについて、全5回にわたる「ラボミーティング」において多角的に議論を重ねました。 

11名の人物が、一つのテーブルを囲って話し合っている。テーブルの上には大きな紙が広がっており、数々のふせんが貼られている。
2025年9月のラボミーティングの様子。マップのプロトタイプを使い、ワークショップを検証してみた。

研修のゴールを「職員誰もが合理的配慮の対応をできるようになること」とし、その出発点として、館全体で多様な利用者を迎えるための「姿勢」を共有できるプログラムとなることを重視しました。
しかし議論の中で、前提そのものを問い直す視点が浮かび上がります。それは、「アクセスする以前に、ミュージアムが“行ってもいい場所”だという認識を持てていない層がいる」という指摘です。つまり、文化芸術に関心があるものの、ミュージアムとの接点の少なさや敷居の高さにより、問い合わせにすら至らない現状がある。まずはその現状をミュージアムのあらゆる関係者に理解してもらう必要があるのでは、という議論が立ち上がりました。そこで、ミュージアムに対する「心理的障壁」を可視化し、利用者の視点から対応を捉え直すことをひとつの方針としました。

ミュージアム側の課題|対応を阻む2つの壁

あわせて、合理的配慮の対応が進みにくい背景として、主に2つの課題が見えてきました。

1.「合理的配慮」の必要性が組織内で共有されにくいこと

現場では、合理的配慮が「通常業務の範囲外」と捉えられるケースが少なくありません。また、特定のニーズを持つ利用者との接点が希薄なゆえに、必要性や切迫感を実感として持ちにくい状況もあります。必要性を感じていない研修参加者にこそ、なぜ合理的配慮が必要なのかを理解してもらい、主体的に捉えられる意識の醸成が求められると考えました。

2.対応の属人化

合理的配慮の対応が、特定の部署や個人に委ねられ、知見が属人的になる傾向も指摘されました。加えて、所属を横断した議論の機会が少なく、館としての方針が明確になっていない場合もあります。それらを踏まえ、組織全体で共通認識を持ち、誰もが一定の対応を担える状態をつくることもラボミーティングの中で確認しました。

研修の設計|3つの軸と6つのステップ

これらの課題を踏まえ、研修で目指すべきことを「主体的な意識の醸成」「心理的障壁の理解」「館全体での取り組み促進」の3つを軸に整理しました。

1.多様な職員同士でミュージアムの役割を共有する

合理的配慮をサービス対応として考えるのではなく、ミュージアム、ひいては文化芸術の役割と結びつけて捉え直すこと。そのために、参加者全員が自館の魅力や存在意義について共通認識を持った上で、アクセシビリティについて主体的に考える機会を設ける要素を取り入れることにしました。

2.利用者の声に直接触れる

障害のある人など、ミュージアム利用において具体的な経験や課題を感じる当事者(以下、当事者)との接点が希薄であるという課題に対しては、実際に当事者と対面し、個人の体験や思いを聞く機会が、自分ごととして捉える契機になると考えました。文章や映像を通じてではなく、「一人の利用者の声」として受け取る実体験が、個別の状況に応える合理的配慮の姿勢へとつながります。

3.組織間での議論を促す

対応の属人化という課題に対しては、所属や役割を越えた対話の場を設け、それぞれの視点を持ち寄りながら対応例や知見を整理していくことが重要です。これにより、館全体としての対応の幅を広げる基盤づくりを目指しました。

そうして、対面ワークショップは学びから実践へとつなげる構成として、以下の通りに設計しました。

 

1)アイスブレイク|ミュージアムの魅力を再確認

自館の好きな点や魅力について、参加者同士で共有する。

2)レクチャー|前提の共有

NCAR職員より、ミュージアムの役割や合理的配慮の意義について解説する。

3)利用者の声を聞く|体験に触れる

研修実施地域に暮らす当事者をゲストとして招き、ミュージアムでの体験や課題について話を聞く。

4)ワーク①|合理的配慮の対応を考えるロールプレイ

利用者からの問い合わせを想定し、どのような対応が可能か実演を通して検討する。

5)ワーク②|利用者の視点に立って、組織で対応を考える

入館前から入館後、さらに深い体験に至るまでのプロセスで生じる障壁や困りごとを、利用者別に整理したツール「ミュージアム・アクセシビリティマップ」を用いて可視化。「今すぐにできそうなこと」「予算と時間があったらできそうなこと」「聞きたいこと・わからないこと」を書き出し、組織としての対応を議論する。

6)振り返り|個人のアクションを言語化

「明日から私が取り組むアクセシビリティ」をテーマに、個人で実行可能なアクションを言語化する。

ワークツール|対話を生む「ミュージアム・アクセシビリティマップ」の開発

「ミュージアム・アクセシビリティマップ」に取り組んでいる様子。黒いペンを持った手などが写り込んでおり、黄色、オレンジ、青色のふせんがマップにたくさん貼られている。

対面ワークショップの中核となるのが、組織横断での議論を促す教材ワークツール「ミュージアム・アクセシビリティマップ」です。「多様な職員同士が対話しやすい場をどのように設計するか」を起点に開発を進めました。

開発において重視したのは、「意見の広げやすさ」と「利用者の声の可視化」です。はじめから「課題解決」を目的とした議論に向かうと、正解を求めて議論が硬直してしまう懸念があります。そこで、課題だけでなく現場の悩みや迷い、体験したエピソードなども含めて、多様な視点をテーブル上に並べられる設計を目指しました。

また、課題を単に羅列するだけでは「誰のための議論か」がイメージしづらくなります。合理的配慮は個別のニーズに対話的に応えるものだからこそ、「一人の利用者の声」が立ち上がる構造が必要だと考えました。

 

プロトタイプを通じた検証

ワークツールができあがるまで、以下の4段階のプロセスを辿りました。

1. プロトタイプ ver.1 ―網羅性と引き換えの重さ

まずは利用者・ミュージアム・環境といった複数の視点から、アクセシビリティの課題を網羅的にマッピング。多角的に可視化できる一方、情報量が多く議論の起点として扱いづらいため、体験のプロセスごとに整理する方針へ転換しました。

 

2. プロトタイプ ver.2-自由度ゆえの「とっかかり」の不足

体験のプロセスごとに課題や対応を書き出す構成へ。
しかし、前提知識や対応経験がない場合には議論が立ち上がりにくく、思考の手掛かりとなる要素の必要性が明らかになりました。

 

3. プロトタイプ ver.3―体験をたどる設計へ

多様な利用者のミュージアム体験のプロセスを可視化したマップに更新。
すごろく形式を取り入れ、さまざまな回り道や困りごとがあることを表現するとともに「一人の利用者」の視点にフォーカスして議論できる構造へと発展していきました。

 

4. 最終デザイン―「一人の体験」を起点にする

すごろくのようなマップのデザインを活かしながら、個別のニーズに向き合い、時間内で対応を検討し議論できるように整理。特定の利用者像に焦点を当て、困りごとを「利用者の声」として具体的にイメージできるように表現しました。

 

最終デザインのフォーマットをもとに、異なるニーズを持つ利用者ごとに9パターンのマップを作成しました。

・目が見えないTさん(全盲)/目が見えにくいKさん(弱視)

・耳が聞こえないIさん(ろう)/耳が聞こえにくいUさん(中途失聴)

・車いす利用者のYさん(身体障害)/ストレッチャー型車いす利用のRさん(重複障害)

・騒がしいところが苦手なHさん(発達障害)

・ベビーカー利用のRさん/忘れやすい・疲れやすいOさん(軽度認知症)。

各マップに書かれた利用者の声は、NPO法人エイブル・アート・ジャパンと横浜市民ギャラリー あざみ野等が企画した「美術館×インクルーシブ×デザイン実行委員会 みんなの美術館プロジェクト」において、2012年に発行した「みんなの美術館 デザインノート」に蓄積された実体験を参照して編集を行い、現実に根ざしたツールへと仕上げました。

こうして「ミュージアム・アクセシビリティマップ」は、立場の異なる人同士が同じ視点に立ち、対話を広げるための媒介装置として設計。実際に各館での研修においてどれだけ議論が活性化し、アクセシビリティの「実践知」が可視化されるかどうか検証されました。

対面ワークショップの実績|全国10か所・244名が参加

約半年間にわたる開発期間を経て、2025年12月から2026年2月にかけて研修を実施。対面ワークショップの参加者は、全国10か所で244名。なお、「eラーニング」の受講者を含めると全国約50か所・計1,461名が参加しました。開催形態は、単館開催が3件、複数館による合同開催が7件となり、参加館の合計は27館、参加者もミュージアム職員にとどまらず、大学関係者、NPO法人、福祉団体、一般市民など、多様な立場の人々が集まりました。

対面ワークショップの実施一覧表。左から、ミュージアム名と参加形態、参加人数、NCARの講師名、ワークの内容として「前半 利用者の話をきく:当事者ゲスト」の氏名、「後半 対話ロールプレイ」の有無、「後半 マップ」の実施内容の項目がある。
「対面ワークショップ」の参加形態、人数、講師名、ワークの内容等を記した一覧表

「対面ワークショップ」の具体的な様子については、以下の活動レポートよりご覧ください。2025年12月18日に実施した山形美術館、2026年1月8日に実施したむかわ町穂別博物館の事例について、NCAR客員研究員の伊東俊祐が調査レポートとしてまとめています。

 

NCAR職員が講師となりレクチャーを実施

30名くらいの人が着席し、NCARの講師が前で話をしているのを聞いている様子。テーブルごとに5~6名程度が分かれている。
マイクを持った人物が話しをしている様子。右側には黒いモニターがあり、音声認識アプリケーションによって話した言葉が白い文字で表示されている。
(撮影:五十嵐丈)

館の魅力を共有し合うアイスブレイク

3人の人物が向き合って話している。中央の人物が、手に写真を持ちながら指を指して話している。
(撮影:藤島亮)
3人の人物がテーブルに座っている。中央の人物が、白い紙に書かれたイラストを持ち笑顔で話しており、両側の2人がのぞきこんでいる。

各地域で暮らす利用者をゲストとして招き、体験や課題について直接話を聞く

車椅子に乗った人物がマイクを持ち、話している。複数の人物が、ゲストの方を向いて話しを聞いている。
5名の人物が前に座っており、客席から複数の人物が話しを聞いている。中央の人物がマイクを持って話している。
(撮影:藤島亮)

合理的配慮の対話ロールプレイの様子

「対話ロールプレイ」のためのワークシートを持つ手元のズームアップ。
(撮影:藤島亮)
6人程度の人物がテーブルを囲み、2人組ずつに分かれて対話ロールプレイに取り組んでいる。
(撮影:藤島亮)

ミュージアム・アクセシビリティマップを用いたワーク

4人の人物がテーブルを囲み話し合っている。テーブルの上には「ミュージアム・アクセシビリティマップ」が広がっており、ふせんやペンが広がっている。右下の人物(背面)が話しをしながら、左上の人物はふせんに文字を書いている。
「ミュージアム・アクセシビリティマップ」の途中経過の様子。黄色、オレンジ、青色のふせんがたくさん貼られている。
(撮影:藤島亮)

グループごとの議論内容を全体で共有

10名の人物が、立ったり座ったりしている状態でテーブルを囲んでいる。車椅子利用者のゲストがマイクを持って話しているのを、周囲の人が聞いている。
(撮影:藤島亮)
画面右側に、ふせんが貼られた「ミュージアム・アクセシビリティマップ」を両手で掲げる人物がおり、その正面にいる人物がマイクに手を持ち、マップに書かれた内容を読み上げている。複数の人物が発表の内容を聞いている。

ミュージアム・アクセシビリティマップを用いたワークでは、さまざまな議論が活発に行われました。マップに書かれた困りごとに対してアイデアを付箋に書き出し、「今すぐにでも実現できそうなこと(黄色)」「予算と時間があったらできそうなこと(オレンジ)」「わからないこと(青)」に分けることで、取り組むべきことを段階的に検討していきました。

「ベビーカーを使って来館したいRさん」のワーク後のマップ。例えば、展示室に入ってから子供を落ち着かせる場所があるかどうか、という吹き出しに対し、黄色で「ソファ」、オレンジ色で「カームダウンスペース」「居場所づくりの話し合い」という文字が書かれたふせんがある。
「目が見えないTさん」のワーク後のマップ。例えば、点字による解説文はあるのか、という吹き出しに対して、黄色で「それぞれの対応をウェブサイトで公開しておく」、青色で「点字が読める人は1割!!」と書かれたふせんが貼ってある。
「耳が聞こえないSさん」のワーク後のマップ。例えば、受付で外国人と勘違いされた、という吹き出しに対し、黄色で「筆談マークを出しておく」、オレンジ色で「手話できる案内係の動員」や「書き起こしアプリの導入」と書かれたふせんが貼られている。

各館の議論の中で印象的だったのは、「今すぐに実現できそうなこと」が想像以上に多く挙げられたことです。予算や時間といった個人では解決し得ない問題を一度切り離すことで、利用者と実際の館の状況を想像しながら具体的なアイデアが生まれていました。

 

たとえば、「車いすユーザーのYさん」の「展示ケースによっては作品や資料が見えないものがあるけど、諦めるしかないかな」という困りごとに対しては、「作品を撮影したタブレットを貸し出す」「作品の画像を用いながら口頭で伝える」といったアイデアが並びました。一方で、「この対応で鑑賞したことになるか」という議論も生まれ、「昇降式車いすを導入する」「仮設スロープを設置する」といった予算や時間をかけた対応へと発展していきました。すぐにできることを起点にしながら、本質的な解決へと視野が広がっていく。そうしたプロセスの中で、段階に応じた対応が自然と整理されていきました。
初めからあらゆるニーズに応えようとするのではなく、今できることを参加者同士で共有することで、現場レベルと組織レベルの両面から検討すべき点が明確になり、具体的なステップへの議論へと広がっていきました。

ふりかえり|利用者との対話が照らしたもの

最終ふりかえり

全国10か所の研修実施後、ラボメンバーに加え、ゲストとして研修に参加いただいた利用者の方々も交えたふりかえりミーティングを行ない、当事者の視点から重要な意見と示唆が提示されました。

15名以上の人物がテーブルを囲んでいる。奥にモニターが設置されており、スライドを使って話している人物を周囲が聞いている。車椅子利用者の人物が一番手前に座っており、モニターの隣には手話通訳者が立っている。
2026年3月に実施された最終回の「ラボミーティング」の様子。乃村工藝社の未来創造研究所ラボで開催された。

障害者の工夫への視点

障害者の「困りごと」だけでなく「日常生活における工夫」を知ることもヒントになる、という指摘がありました。たとえば、聴覚障害のある人が決まった時間に起きるための工夫や、視覚障害のある人がレストランのメニューを確認する方法など、日常生活の工夫には、ミュージアム運営にも応用できる視点が含まれており、こうした観点での議論を検討する重要性も言及されました。

具体的な実践に向けた姿勢の醸成

一方で、議論が「知ること」や「できそうなこと」にとどまり、具体的な変化に十分踏み込めていないのでは、という懸念も示されました。合理的配慮が義務化された現在において、「できることから始める」というスモールステップだけでは、対応の先送りにつながるリスクも指摘され、問題意識を持って取り組み続ける重要性を改めて確認しました。

「双方の課題」をつなぐ考え方

アクセシビリティの取り組みへの障壁は利用者側だけでなく、ミュージアム側にも存在するという視点も提示されました。対応における不安や体制の不備など、ミュージアム側の困難も十分に可視化されていないため、双方の課題をつなぎ合わせていくことが本質的な解決のアプローチとなります。アクセシビリティの考え方は、利用者対応だけでなく働く側の権利にとっても必要なことであるという議論があり、「誰もが対応を受ける側になり得る」という認識を共有することが、問題意識を高める上で不可欠であると示唆されました。

 

うした指摘は「対応するミュージアム=支援する側」「対応される利用者=支援される側」という関係性の固定化への問い直しでもあります。利用者とミュージアムに関わる一人ひとりの声は、ミュージアムをめぐる社会的なバリアを可視化する重要な視点であり、そうした双方向の関係性をもって取り組むことの意義が改めて浮かび上がりました。 

まとめ

研修を重ねる中で印象的だったのは、「誰かのための議論」として場の空気が変わっていく瞬間でした。ツールを通して一人の利用者の体験をたどることで、漠然とした「アクセシビリティの課題」が、特定の困りごとを持つ一人の話として迫ってくる。日々の業務の中では見えにくい「訪れる以前の段階にいる利用者」の存在も、そうして初めて具体的に捉えられていきます。その変化が、参加者一人ひとりの言葉や議論の深まりの中に確かに感じられました。

今後はこうした「意識の醸成」や「視点の共有」から、「組織に根づく仕組みづくり」へと移行させ、実装へと結びつけていくことが鍵となります。ミュージアムとして仕組みを整えていくことは、多様な人が関わるだけに、慎重な議論と検証を要するでしょう。一方で、ミュージアム・アクセシビリティマップのワークで明らかになったように、日々の運営の中ですぐに実践できることも大いにあります。すぐに動けることを重ねながら、時間をかけて整えるべきことも手放さない。その両輪で進むことが、着実な変化へとつながると考えています。

NCARでは今後も、各館の状況に応じたアクセシビリティの取り組みを継続的に支援していきます。ミュージアムという公共の場からアクセシビリティのあり方が浸透していくことで、社会全体の機運へと広がっていく。その可能性を見据えながら、これからも伴走し続けたいと思います。

1) 障害者の権利をはばむ社会的障壁を除去するために、個別の状況に応じて必要かつ適当な、変更や調整を行うこと。

2) “博物館は、有形及び無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関である。博物館は一般に公開され、誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育む。倫理的かつ専門性をもってコミュニケーションを図り、コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する。”(引用:ICOM日本委員会による日本語確定訳文)

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